2023年12月26日 (火)
【ライヴレポート】<Royz 暴歌限定行脚「地獄愛」-TOUR FINAL->2023年12月25日(月)神田スクエアホール◆Royz、“暴歌”尽くしのライブで示した最愛の形と未来への決意――「終わらせるには惜しい世界を見せてやる」
REPORT - 18:38:06Royzが、『暴歌限定行脚「地獄愛」』と題して全17本を回ったワンマンツアーのファイナル公演を12月25日、東京・神田スクエアホールにて開催した。本公演中に発表された2024年に展開されるリリースやライブの最新情報も合わせ、“暴歌”にまみれたライブの模様をお届けする。
◆ ◆ ◆
〈始めようか、東京!〉――サイレンが響く緊張感を帯びたSEに乗せてメンバーが登場し、昴(Vo)が開幕の号令をかけて以降、「阿修羅」を皮切りに絶え間なく繰り出される“暴歌”に拳を挙げ、頭を振り乱し、そして叫ぶ会場のボルテージは常に最高潮だった。メンバーが纏っている赤い特攻服は攻めの姿勢を表す象徴で、その中心で集団の意を示す大旗を背負って歌う昴は “総長” さながらの貫禄を持っていた。「Killing Joke」「MASK」とヘヴィネスサウンドを畳みかける様子にまるで容赦はなく、さらに公大(Ba)が音で重心を支えつつも特攻隊長のようにファンを煽り続ける。こうして要所要所に轟く観客の声を交えることで完成する楽曲が冒頭に並べられていたところを見ると、初っ端から団結力を高めるにはもってこいのセレクトだったとも言える。
本心をさらけ出しやりたいようにやって、一緒に堕ちるところまで堕ちよう……そんな「地獄愛」に込めた思いをグルーヴと一体感で表した「脳天開闢」も印象的だったが、「witch in the HELL」のように智也(Dr)が叩き出す高速ビートに杙凪(Gt)の巧みなギターが重なるなどして聴きごたえのあるサウンドを生み出していた部分も特筆しておきたいところだ。Royzと言えば、歌やメロディーを重視した楽曲というのがパブリックイメージとして挙げられるだろう。もちろんそれが強みであることに間違いはないが、激しさに比重を置いたライブでも確かな充実感を得られる強みが今のRoyzにはある。その要因は骨太で存在感ある演奏スキルや歌声はもちろんのこと、その音圧に負けない程の“本気(マジ)”な心情をダイレクトにぶつけられる自信を手にしたことも大きい。
暗転から地鳴りのような智也のドラムが和旋律に調和して口火を切った「KAMIKAZE」。立て続けに披露されたハードな楽曲の中で、穏やかながらも確信に満ちた閃光に包まれた「KAMIKAZE」が見せた情景はオアシスのようだった。さらにそこへ、足掻き続けて“血まみれ”になろうともバンドとファンを繋ぐ揺るがない絆を感じさせるドラマが重なれば、一層胸を打つものがある。しかし一変、当初予定していた楽曲から激しさを追求するべく再選したという「開眼」へ続くと、ウォール・オブ・デスを起こす体当たりな展開を取り戻し、さらに「SIGN」のようにバンド初期からあるハードな面とメロディアスさとが絶妙にドッキングするRoyzならではのアプローチも見せ場としてしっかりと押さえていた。
そして、〈もっと一つになろう〉と意気込んで「AMON」から突入したラストスパート。サビのフレーズの折にステージへ向かって掲げられる無数の手が光を求めているようで、特に“地獄で愛し合おう”という部分でそれを強く感じた瞬間、〈お前らの救いはここだ!〉と昴は叫びあげることでその光を明確にしてみせた。このように、上辺だけではない深いところで繋がろうとする心が強く息づいており、「Jack the Ripper」では止めを刺すように攻め込んでいく中で〈生きてるか!?〉という言葉でファンと自分たちとの存在証明を露わにする場面もあった。
〈本当の死に場所がここじゃないっていうことをわからせてやる。終わらせるには惜しい世界を俺が見せてやる〉と、本編ラストを飾った「RAIZIN」の前に昴は堂々とこう言い放った。“死に場所”というセンシティブなフレーズを用いることで本気度を表したバンドの未来に対する決意。想いは音楽に乗って届く、そう証明するかのような音と、そして今日一番の力強い歌に心が震えた渾身のエンディングだった。
アンコールの声が響く中、映像を通して新たなヴィジュアルに続き、2024年の最新情報が解禁された。まずはmaxi single「GIANT KILLER」を3月6日に3type同時リリースし、今作を引っ提げたSPRING ONEMAN TOUR「下剋京」では全14本を回り、ツアーファイナルは4月30日、東京・Spotify O-EASTにて行われること。さらに、昴のスペシャルソロライブと智也の生誕祭(Royzワンマンライブ)をそれぞれの誕生日に即して開催。これにとどまらず、夏に控えるライブの情報も告知された。14周年の締めくくりとして8月29日にZepp DiverCityにてONEMAN LIVE『「14th LAST LIVE」–星に決意を–』を行い、毎年恒例となっている“周年”公演はONEMAN LIVE『「15th FIRST LIVE」–星に誓いを–』と題し、9月28日に久々に彼らの地元である大阪・なんばHatchにて開催することが決定した。
アンコールでは、〈いつも大事な日に一緒にいてくれてありがとう、メリークリスマス〉というロマンチックな言葉を添えて贈った「Silent Snow」もクリスマスプレゼントだったならば、ラストの「鬼ト邪吼」もまた、この“暴歌行脚”を締めくくる最高のプレゼントとなった。ラストスパートの煽り倒す場面にて、智也がマイクを手にステージ前方へ出てきたことでドラムが不在となったところに〈サンタさんよりも嬉しい、大好きなお兄ちゃん!〉と呼び込んだのは、なんと遠海准司(己龍)。この嬉しいサプライズは会場を一層ヒートアップさせ、“地獄”に比喩した究極の境地で愛し合うことを何度も繰り返した逆ダイブの応酬によってしっかりと昇華させたのだった。
前回のワンマンツアー「地獄京」にてミュージシャンならば誰もが夢見る大きな舞台を未来の目標として挙げる場面があったが、その夢の舞台までの過程として2024年は着実に大きな一歩を踏み出せる年にしたいと伝えた。大いなる番狂わせを起こす者たちを意味する“GIANT KILLER”を掲げ、〈このメンバーとコンマ一秒でも長く一緒に音楽をやっていたい〉というシンプルだけれど根源にあるべき大切な想いを胸に、下剋上を起こそうと滾る闘心の片鱗を見せたこの日。昴が〈戦いに行く準備が整った〉と言った瞬間の高揚感をエネルギーにして、トップギアで走り出す準備はもうできているのだ。
レポート・文◎平井綾子
写真◎岡田裕介
====================
<セットリスト>
1.阿修羅
2.Killing Joke
3.MASK
4.涅槃-nirvana-
5.脳天開闢
6.witch in the HELL
7.AWAKEN HUMANOID
8.KAMIKAZE
9.開眼
10.SIGN
11.AMON
12.キュートアグレッション
13.DANCE WITH DEVIL
14.Jack the Ripper
15.RAIZIN
En-1.Silent Snow
En-2.カルマ
En-3.ANTITHESIS
En-4.鬼ト邪吼
====================
【リリース情報】
★Royz 26th maxi single「GIANT KILLER」
2024年3月6日(水)3type同時発売
…………………………………………
■Atype【初回限定盤】CD+DVD
1,980円(税抜価格1,800円)/BPRVD-487 JANコード:4582281548670
CD2曲+DVD「GIANT KILLER」MV・メイキング
[封入]全タイプ購入特典応募券「A」+応募ハガキ
…………………………………………
■Btype【初回限定盤】CD+DVD
1,980円(税抜価格1,800円)/BPRVD-488 JANコード:4582281548779
CD2曲+DVD「GIANT KILLER」マルチアングルMV
[封入]全タイプ購入特典応募券「B」
…………………………………………
■Ctype【通常盤】
1,650円(税抜価格1,500円)/BPRVD-489 JANコード:4582281548878
CD2曲+ボーナストラック1曲+インスト4曲
[封入]全タイプ購入特典応募券「C」
…………………………………………
★全タイプ共通封入特典:トレカ2枚(全8種)
★全タイプ購入応募特典有
====================
【LIVE情報】
■Royz SPRING ONEMAN TOUR 「下剋京」
2024年
3月16日(土)【埼玉】HEAVEN’S ROCK さいたま新都心 VJ-3
3月17日(日)【千葉】柏PALOOZA
3月23日(土)【静岡】浜松窓枠
3月26日(火)【岐阜】岐阜CLUB ROOTS
3月28日(木)【石川】金沢AZ
3月30日(土)【愛知】名古屋SPADE BOX
4月02日(火)【兵庫】神戸VARIT.
4月04日(木)【広島】広島SECOND CRUTCH
4月06日(土)【福岡】福岡DRUM Be-1
4月10日(水)【香川】高松DIME
4月12日(金)【京都】KYOTO MUSE
4月13日(土)【大阪】OSAKA MUSE
4月21日(日)【仙台】仙台MACANA
-TOUR FINAL-
4月30日(火)【東京】Spotify O-EAST
■昴Special Solo LIVE 「星の降らない夜には、」
2024年2月17日(土)【東京】HOLIDAY SHINJUKU
1部:「月蝕」【開場/開演】14:00 / 14:30
2部:「昴」 【開場/開演】18:00 / 18:30
■Royz ONEMAN LIVE「智也生誕祭~ハチャメチャフィーバーナイト2024~」
2024年5月11日(土)【東京】下北沢シャングリラ
【開場/開演】16:15 17:00
■Royz ONEMAN LIVE「14th LAST LIVE」–星に決意を–
2024年8月29日(木)【東京】Zepp DiverCity
※その他の詳細は後日発表いたします。
■Royz ONEMAN LIVE「15th FIRST LIVE」–星に誓いを–
2024年9月28日(土)【大阪】なんばHatch
※その他の詳細は後日発表いたします。
====================
★Royz OFFICIAL SITE★
2023年12月26日 (火)
【ライブレポート】<己龍生誕十六周年記念公演「拾陸周年」>2023年12月18日(月)Zepp Haneda:5人で成し遂げた生誕十六周年記念公演。──「我々は、一生涯、己龍ですから」
REPORT - 18:32:18己龍
黒崎眞弥 / 酒井参輝 / 九条武政 / 一色日和 / 遠海准司
己龍の生誕十六周年記念公演「拾陸周年」。12月18日、Zepp Hanedaにて行われた本公演のステージには、確かに“5人”の姿があった。
この日をもって“無期限活動休止”することが発表されたのが、今年7月のこと。これまで何があろうとも歩みを止めることがなかった彼らにとって、これは非常に大きな決断だったことが伺える。バンドにとって大きな節目を迎えるにあたり、もう一つ奇跡的なことが実現した。それが、表舞台での活動を休止していた九条武政と、療養期間に入っていた黒崎眞弥がステージへ立つ決断をしたことで、再び“5人”がステージへと揃うことだった。
満員御礼となった16回目の“周年”を祝う場には、メンバー、ファン、そして己龍に関わるすべての者が抱くそれぞれの想いが集結。そんな激情に溢れたライブの模様をお伝えする。
◆ ◆ ◆
SEに乗せて1人ずつメンバーを迎える場内は、興奮の歓声と感無量な拍手とで溢れかえった。そして、幕開けを飾ったのが「暁歌水月」というのもまた、アツい。かつて九条武政を送り出した際に5人揃って最後に演奏したのも、黒崎眞弥が療養に入る前の公演で最後に演奏されたのも、この曲だった。まるで“あの日の続き”を思わせるオープニングの早々、黒崎眞弥はこう告げた。
「今宵こそまさに、俺たち5人が示す答えそのものだ」
高揚感にブレることなく各々のポジションにドンと構えて演奏する姿にこみ上げるものがあったが、その後“我らに続け”という号令から続いた「百鬼夜行」、メンバーが一斉に飛び上がる「天照」へとノンストップに駆け抜ければ、感傷に浸る隙など与えてはくれない。ライブの運びもさることながら、目の前に5人の姿が在ることの一瞬一瞬が懐かしくもあり特別なものであるはずなのにその様子は不思議なくらい“自然”で、脳内に刻み込まれている記憶と目の前で起こる情景とがリンクして起こる、パズルのピースがハマっていくような感覚がむしろ楽しくて仕方がなかったのだ。
「ただ一つ、揺るぎない確かなモノはここにあります。我々は、一生涯、己龍ですから。ゆえにこの5人が根底ではしっかりと繋がりあっているということです。16周年、祝言の想いを今ここに。荒ぶるブスども、出てこいや!」(黒崎眞弥)
表舞台での活動にその姿が無くとも、ずっと1つのバンドの中で5人が共存し続けていたからこそ、今日という日が実現したのだということも改めて思い知らされる。それが、この日ならではのリアルタイムな表現が詰め込まれていた中盤のセクションでも感じられた。「䁶」に続いた「蠱毒」「是空是色」は、音源では九条武政の音を聴くことができるものの、初めて全員の生演奏によって聴くことができた。間には、酒井参輝のもとに駆け寄った九条武政が肩を組んで2人が笑顔を浮かべながら演奏する場面もあった「朔宵」や、雅やかに扇子が揺れた「悦ト鬱」を挟み、「明鏡止水」「雪、黒業ニツキ」では雪景色を彷彿とさせて、存分に冬の季節感を味合わせる。一変、「花魁譚」や「朱花艶閃」では、九条武政のリードギターがリアルな音としてスピーカーを通して聴こえてくる歓喜も乗じて、見る見るうちに会場のボルテージが上がっていった。
ラストスパートを前に、黒崎眞弥はバンドとしての大きな転換期である日にファンへの感謝を伝えるも、〈ブスはブス!〉と眞弥節でファンを鼓舞。こうして「九尾」から即座に混沌へと導くと、ドラムに向き合い息を合わせて突入した「情ノ華」。そして、「愛怨忌焔」「鬼祭」へと一心不乱に轟音を畳みかけていき、己龍の歴史をさらうベストセレクションともいえるラインナップで魅せた本編ラストに用意されていたのは「アナザーサイド」だった。彼らの原点でありながら、各ソロ回しでメンバーの個性すらも見せつけるこの曲。“痛絶ノスタルジック”というコンセプトのもとにゼロから築き上げてきた独自のスタイルを崩すことなく、常に楽曲やライブでは生きる上での不条理や醜さにも屈強な意思を貫き、時には希望すら見せてくれた。これは過去形で語り継ぐものではなく、これからも己龍らしい在り方で生きていくことを示すような、どこか晴れ晴れしい幕締めだった。
実際に、アンコールに応えて登場したメンバーの口からはポジティブな言葉を聞くことができた。酒井参輝は〈諦めなければ夢は叶う〉と、その夢の1つとして今回5人でライブができたことを挙げ、次の夢は〈20周年にデカいことをすること〉だと伝えた。一色日和はかつて口にした〈(ファンとメンバーが)お互いじいちゃん、ばあちゃんになってもライブをやりたい〉という気持ちは変わっておらず、〈一生バンドをやりたい〉と話した。九条武政は〈久しぶりだけど久しぶりな感じがしない、“ホーム感”〉と嬉しそうに話しつつ、場を和ませる相変わらずのお調子者ぶりを発揮。遠海准司は、〈次のライブが決まってないだけなんです!〉と、ポジティブな思考で無期限活動休止を表した。そして黒崎眞弥からは「ただいま」というシンプルな一言だけであったが、彼の精神状態を顧みるとステージへ立つことを決断した心の内は計り知れない。本編中、時折しゃがみこみながらも止まらず全曲を歌い切ったことを思えば、その一言と歌声を聴けただけでも十分だった。
アンコールでは全5曲を披露。「空蝉」や、銀テープが舞った「叫声」といったエモーショナルな楽曲を大切に届け、最後に置き土産のように粛々と演奏された「螢」。
「またいつか、会う日まで」
演奏が終わるのを待たずして、去り際に黒崎眞弥はこう言い残した。
これが終わりではないから、このレポートも悲しい形で締めくくるつもりはない。己龍のメンバーは、絆というよりももっと強靭なもので繋がれているように思う。それは関係の深さだけではなく、自分自身はもちろん、メンバー同士にも時には厳しさをもって切磋琢磨しながら叩き上げて来たともいえる強さがあるからこそだ。再び彼らに会える日は確約されてはいない。それでも本公演を終えた今、残っているものはなぜか寂しさではない。“此の命が尽き果てるまで夢を…さぁ、唄いましょう”と、酒井参輝が共に背負っていこうと話したこの「暁歌水月」の一節の通り、夢を見る命はまだ続いているのだから。
レポート・文◎平井綾子
写真◎Tanabe Keiko
====================
<セットリスト>
1.暁歌水月
2.百鬼夜行
3.天照
4. 䁶
5.蠱毒
6.是空是色
7.朔宵
8.悦ト鬱
9.明鏡止水
10.雪、黒業ニツキ
11.花魁譚
12.朱花艶閃
13.九尾
14.情ノ華
15.愛怨忌焔
16.鬼祭
17.アナザーサイド
‐再演‐
1.紫触
2.無垢
3.空蝉
4.叫声
5.螢
====================
★己龍 OFFICIAL SITE★
2023年12月22日 (金)
【ライヴレポート】<孔雀座 第壱回単独舞台「羽堕とし -奇々怪々編-」>2023年12月15日(金)池袋EDGE◆孔雀座第壱回単独終演、背水の覚悟も暴けなかった“正体”と届いた“決意”。「今暴いてたまるか!」本質ここに在り!粉骨砕身の夜。
REPORT - 20:30:5212月15日東京都・池袋EDGEで孔雀座のワンマンライヴ、<第壱回単独舞台「羽堕とし –奇々怪々編–」>が開催された。始動から半年で決行した単独公演、大空へ羽ばたく未来を想起させるべきものであるはずなのに、そのステージからは後がない不退転の覚悟と焦りを感じた。男たちは何故に生き急ぐのか?ステージにしか答えを見いだせない5人が今持ちうる全てを賭けて提示した未完成な行先。決戦の夜の模様をお届けする。
◆ ◆ ◆
2023年、音楽業界は様々な出来事に遭遇せざるを得ない1年であったのではないか。
特に日本のシーンにおいては喪失感を感じる機会が多く、その都度音楽の素晴らしさと、生活・人生における結びつきを再確認させられることにもなった。フィーチャーされる功績が輝かしいからこそ虚無に襲われ、どこか鬱屈としたムードにも苛まれる。
音楽は、アートは、人々を立ち上がらせることも出来れば、時に立ち止まらせることもある。
もちろん、その甘美な思い出や想いは褪せることがないもの。そう信じている、きっと。
孔雀座は今年の6月にその姿を露わにした。チャイナ風の鮮烈なヴィジュアルは話題を呼び、始動主催<大殺界>は大盛況のうちに成功を収めたが、その終演後には12月15日に第壱回単独舞台を行うことが早々に発表された。
その時点で音源化されている楽曲は片手で数えられるヴォリューム。自らに枷をかけるよう、疾風の如く駆け抜けることを責務としたそのスタイルは華々しい始動のイメージとはかけ離れたある種の焦燥感を感じさせた。
その手に武器を携えるために走り続けた孔雀座はこの記念碑となる夜に何を提示したのか。
持たざる者は、失うことすらも許されないのである。
持ちうる者になるべき覚悟の夜は“行くぞ!!”というシンプルかつ気合いの入った咆哮から始まった。
五感に訴える孔雀座のライヴではお馴染みの、焚かれた香の香りが充満する会場のステージ袖での気合い入れの声は幕を突き抜けフロアにまで鳴り響いた。
ほどなく暗転すると未羅(Vo)の肉声による“かかってこい!!”を号令に始まったのは「九龍」。この耳慣れないナンバーは何を隠そうこの日のために密かに用意されていた新たな武器であった。ラウドでハードなリフとファストなパートが目まぐるしく入れ替わる楽曲にもオーディエン歓声をあげ良好な反応を見せる。語り、デスヴォイス、ラップ調と様々な手法を取り込むのは孔雀座の得意技であるが、一層場面を展開するドラマティックなサビは今の孔雀座に求められているピースこれまさにといった手触り。“最高の出会いに拍手”というリリックもこの夜を待ち焦がれていた者に贈るに相応しい1曲であった。
続いたのは武(Gt)のサイケディックなフレーズがヘドバンの応酬を生むお馴染みの「ケセラセラ」。暴れ倒すことを約束させるこの曲の配置で、今日の孔雀座が掲げる狙いがよく伝わる。同時に目を惹いたのは活動初期には激しくもどこか冷静なステージワークで俯瞰的にバランサーとして機能していたLeon(Gt)がその首が吹き飛ばんばかりの豪快な動作で客席に迫り出しアジテーションを繰り返す姿である。半年の活動の中で孔雀座のシェイプが明確になってきたことがわかる。目をやればやなぎ(Ba)も同様だ。Leonの隣でクールにプレイしている姿が印象的だったやなぎもまたそのベビーフェイスとは裏腹に攻撃的なアクションを繰り返す。
▲未羅(Vo)
一方、暴君の如く無秩序にステージを右往左往し感情に委ねる未羅はいつもより落ち着いた様子だ。正直なところフロントマンとして背負うべきものからの緊張感も見て取れた。元来、未羅は逆境のシチュエーションでこそ、その感情過多な表現を如何なく発揮するタイプのヴォーカリストである。自身のハートに火をつけることで情念を溢れさせる彼にとって圧倒的ホームな空間での戦い方は今後の課題か…などと考えていた矢先の「DANCE IN THE DARK」ではマイクを投げ捨て暴れ回るという傲慢な振る舞いで一気にヴォルテージを上げていく。
そうだった。未羅という男にはルールとセオリーが存在しないのだ。瞬間瞬間を切り取った刹那なような展開はハイカロリーだが、そんな憂いをよそに彼なりの説得力で観客ひとりひとりを睨みつけるように歌唱に没頭していく。実に魅力的なフロントマンだ。
▲武(Gt)
▲Leon(Gt)
未羅はしばしば“アンタら”じゃなくて“アンタ”に向けて伝えたいんだと発言する。
群衆に向けた言葉なんて俺には刺さらないという心情を体現しているようだが、とにかくこの日も端から端まで隈なく会場を見渡すシーンが多く見受けられた。
その様子は音源化が待たれる「シリアルキラー」でも同様で、激しいノリを生みながらも丁寧に言葉を紡いだ。
▲やなぎ(Ba)
▲或(Dr)
屈曲させながら艶やかにプレイするやなぎの表現力も映えたが、或(Dr)もいつも以上に気合いの入ったパワフルなドラミングで牽引した。
見慣れないこの日仕様のドラムセットは乗り手を選ぶじゃじゃ馬のような存在感を放つ。
時折立ち上がり、要塞から顔を覗かせる或は華のあるドラミングで斬りつけるようにブラックシンバルを打ち鳴らし、見事に乗りこなしてみせた。
楽器隊によるジャムセッションからの流れが美しい「夜に隠して」ではLeonの情熱的なカッティングと武の奏でる音色の対比が相変わらず心地よく響く。
この「夜に隠して」といい、活動途中で生まれた新曲たちは始動時にリリースされた『大殺界』のアジアンテイストを抽出しながらも、より耳に届きやすいメロディに特化している印象を受ける。
ライトが明滅するなか“俺を壊してくれ!”とアジテートされた「MAYDAY」、大暴れ曲「催眠警報!!!」と続いたのちに未羅がマイクを取る。
“自分の中で一番音楽と向き合って今日を迎えることができた。…でも、音楽をやってると逃げたくもなるし、間違いだってしそうになる。でも…アンタの顔見てると負けられないって思うんだよ。”
“苦悩も愛せるようになりたい。苦悩から逃げきれないこともあると思う。でも、お互いに生きていきたい。苦悩さえも愛していこう”
理想とのギャップから、苦悩しながらこの日までを歩んできたという未羅はMCで観客ひとりひとりに言葉を伝え、届けたのは更なる新曲だった。
「極彩色染まる」と名付けられたこの曲、一聴しただけで耳に残る非常にポップなメロディと苦悩さえも極彩色に染め上げていく強い意志が調和したナンバーだ。
直前までのハードネスとはまるで異なるこの曲の優しさはこれからの孔雀座にとっても大きな意味を持つものに育っていくであろう。
“今までは自分のためだけに歌ってたらいいなって過ごしてきたけど、もうそう思わない。…もうそう思えなくなってしまった。少しでも…ちょっとだけでも…背中を押せるような…そんな曲を歌ってみたいな、そう思いました。”
本編最後に披露されたのは「正体」。
自己満足でもない、自暴自棄でもない。自らを、そして誰かを救いたいと願う曲。
強さは弱さ、弱さは強さ。解っていても進めない感情、消せない後悔を“生きなくちゃ”という意志で浄化させる孤高のアンセムだ。
変わりたいと願うことはある意味においては自分を否定することにもなる。自分を否定してでも変わりたいと願う理由。この日、未羅、武、Leon、やなぎ、或の前に対峙したオーディエンスこそがその答えであり、孔雀座から漂う焦燥感の正体でもある。
無傷では何も救えない。伝えたい想いをその身に纏った未羅は言い放った。
“俺は今日自分がなりたい”正体“に会いにきたんだけど、今日会ってたまるかって思ってる。まだまだこの先俺たちはアンタたちと一緒に自分のなりたい正体に会いに行きます!!!”
未羅は常々発言しているように圧倒的な歌唱力を持つヴォーカリストではない。
だが、伝えるべき言葉に全ての体重を乗せる姿には丁寧な歌唱以上のものを感じさせる、そんな表現者だ。自分の弱さや愚かさと向き合うことをフィードバックするその手法は心身共に削られるものであるが、だからこそ孔雀座の楽曲は届く。
その心を削って辿り着いた場所に孔雀座の本質がある。
命を吹き込んだ「正体」は圧巻のフィナーレだった。
本質といえば、アンコールでは“おい!アンコールだぜ!!!ダハハハハ!!味方しかいねえじゃん!!何してもいいぜ!!!”という発言や客席への乱入などと、積み上げてきた世界感を泡に帰す未羅の愛すべき“悪癖”が尻尾を出し始めた。が、少年のように素直な感情でリラックスしたステージは空気がとても良好で、畳みかけるヘヴィパートとロックンロール調のメロウネスが炸裂する「電脳サイコマン」、本日2度目のなる「催眠警報!!!!」と完全燃焼の盛り上がりを見せた。
5人がそれぞれにアイコンタクトを取り弾けるような笑顔でステージを謳歌する様子は初めて見るものでもあった。
化けの皮が剥がれたというべきか、憑き物が落ちたというべきか、自然体に還った孔雀座が振りまいた轟音のハピネスは“アンタ”の背中を押すものであったし、それこそが“正体”ではなかっただろうか。
◆ ◆ ◆
“幸せだった!愛してるぞ!”
そう叫び彼らはステージを去った。
結成から半年。目標という名の枷があった故に焦りや苦悩がつき纏ったことと思う。
孔雀座は逆境でこそ限界を突破するバンドだ。
これからの道のりは自然と、再び苦悩に向き合うことが想定される。
彼ら曰く、目指すべき“正体”には辿り着くことは出来なかった。
だが、傷を負った羽根で飛べないのなら走ればいい。走れないのなら歩けばいい。
その“正体”に辿り着くまで、孔雀座の通る道は果てしなく続く。
Text:山内秀一
====================
<SET LIST>
1.九龍
2.ケセラセラ
3.DANCE IN THE DARK
4.929
5.シリアルキラー
6.夜に隠して
7.MAY DAY
8.催眠警報!!!!
9.極彩色染まる
10.正体
~ENCORE~
EN1.電脳サイコマン
EN2.催眠警報!!!!
====================
孔雀座 1st Single 「九龍」発売決定!!!!
====================
<孔雀座OFFICIAL HP>
<孔雀座OFFICIAL X>
https://twitter.com/929the_official