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2017年08月20日 (日)


【ライヴレポート】<DEZERT>千秋を救うツアー2◆2017年8月19日(土)恵比寿LIQUID ROOM「僕たちには、柵なんて要らないよね!」

REPORT - 19:07:38

衝動と衝迫。どこまでも奔放でいて、どこかがネジれた直情。その空間の内圧を高めていたのは、きっとそんなものたちだった。

 

 今春に行われ、そのツアータイトルに対してだけでもシーンがざわついた[千秋を救うツアー]を経たDEZERTが、この夜の恵比寿LIQUID ROOM公演を皮切りにして再び始めたのは、文字面から言えばあの続編となるに違いない[千秋を救うツアー2]。

 

 だが、しかし。このツアー直前に行われたとあるインタヴューにてフロントマン・千秋が口にしていたのは、実を言うとこのような言葉たちだったのである。

 

「僕は、ステージに立っているときに何時も虚しくて。だけど、去年とある人からもらった言葉を切っ掛けにして思ったんですよね。考え方を変えたら、俺も不特定多数の人に向けて無の境地になれるのかなって。そうすれば、俺も少しは救われるのかなって。そういう気持ちでやりだしたのが、このあいだの[千秋を救うツアー]だったんですよ。でも、やっぱダメでした。途中で「無理だ、俺」となっちゃって。だからもう、俺は誰かを救うとかそういうのはヤメにしたんです。この[千秋を救うツアー2]っていうツアータイトルにも、別に意味なんてありません。時期が迫ってきて決めなきゃいけなくなって、メンドウだから2ってしただけ」

 

 今思うと、この言葉はそれなりに重要なキーとなっていた気がしてならない。何故なら、ある種の諦念を自己認識することによって誰かを救うとかそういうのはヤメにしたという千秋の意識は、今宵のステージ上において何時にも増す勢いで解放へと向かっているように見受けられたからだ。

 

 去年のZepp東京公演にて無料配布された楽曲「「おはよう」」から始まり、現在公式サイト上にてMVが公開されている「幸福のメロディー」などをまじえながら、冒頭4曲を矢継ぎ早に繰り出しつつ

 

「おひさしぶりです、ミナサマ。そろそろ行こうか!」

 

 と、我々に対しさらりと挨拶してみせる千秋。そして、ここからのSORAが叩き出す肉感的なビートに煽られるようなかたちとなった「脳みそくん。」や、Miyakoの奏でる不協和音ギターが際立った不穏さを生み出していた「「宗教」」、Sacchanの指弾きベースフレーズが歌詞の中に漂う苦悶をより色濃いものとして聴かせていた「「擬死」」では、放たれる力強いバンドサウンドと共鳴しながら歌う千秋の姿を認めることも出来た。

 

 だが、この夜のライヴにおいて千秋の衝動と衝迫が本当の意味で暴走しだしたのは、むしろここからだったと言えよう。まずは、前述の「「擬死」」を歌い終えたところで千秋は突如として舞台袖へ消えることになり、ここからは何と数分にもわたる謎のしじまが舞台上および場内に発生。

 

 えもいわれぬような緊張感が張りつめ出した頃合いで、ようやくステージへと戻ってきた千秋はこれまた唐突に無言でMiyakoのギターを奪うと、それをしばし無心にかき鳴らしてみせるという、半ば奇行にも思える行動に出てみせたのだった。

 

 その後ようやく満足したのか、肩にかけていたギターをMiyakoに返したあと彼が歌い出した「「迫落」」は、不思議と憑き物がとれたようなクリアな歌になっていた、ような気がしたのは何も筆者だけではあるまい。

 

 また、この次の場面では音楽性の面でシュールレアリスムとポップセンスがフュージョンした「「問題作」」をヴォーカリストとしての技量も感じさせながら歌い上げた千秋だが、一転して「「遺書。」」ではいよいよ暴走モードに拍車がかかることに。

 

楽しくないな。どうも楽しくない!」

 

 曲の途中で、MiyakoSORASacchanに対してそれぞれにマイクを向け歌うことを強要したり()、当然ながら観衆に対しても千秋はアジテーションを開始する。

 

「君たち、静かじゃないか。これじゃ外の雨の音しか聴こえない。そんなんじゃ、僕を救えない。歌え!ハモれるやつはハモれ!!」(ちなみに、この日の関東は夕方からゲリラ雷雨に見舞われていた)

 

 それでいて、ある程度の気が済むと「あとは、僕が歌います」と素直に本分へと戻り自分にマイクを向け直すあたりは、何とも愛嬌を感じさせる一幕でもあったはず。

 

 もっとも、だからといってこれで何事も無くDEZERTのライヴが終わると思うなら、それは大間違いでしかない。本編後半に向けた景気付けとして演奏された「「ゴシック」」において、なんとSacchanと彼の相棒である5弦ベースが、この夜における最大の受難者にさせられてしまうのである。

 

 簡潔に説明するなら、①千秋がSacchanのベースをとりあげ、勝手に弾き出す②手持ちぶさたになったSacchanがフロアへ降りるハメに③テンションのあがった千秋があたりに水をまき散らしたあげく、Sacchanのベースにも容赦なしのブッカケを強行。

 

「いいの、俺のじゃないから()

 

 小悪魔を通り越し、完全にデモニッシュな笑いを浮かべたこのときの千秋の姿が、リアルに楽しそうだったことは言うまでもない。

さらに、「包丁の正しい使い方~終息編~」ではウォールオブデスを前提とした通り道を使って、千秋が客席フロアへと降臨。そのうえで彼は

「僕たちには、柵なんて要らないよね!」

 と言いながら客席内に設置されている柵を抜き、そのまま持ち上げて会場内後方まで自ら運んで撤去してしまう暴挙に出たのだから驚く。ファンの方々も、もはや千秋の自由さについては慣れっこだとはいえ、これにはさすがにやや戸惑っている様子がうかがえるではないか。

 

 結局、場内最後方まで来た千秋はそこにあった別の柵の上に乗り、「包丁~」の後半部分をそこで大胆にパフォーマンスすることとあいなった。そこそこの頻度で「本番中は、自分たちのステージを客席側から観ることは絶対に出来ないのが残念」という旨の言葉を他アーティストたちから聞くこと機会があるものの、千秋に限ってはその一線さえ軽々と超えてしまえるのだから恐れ入る。

 

「意味なんて、もうどうでもいいから!」

 

 なお、ここからの本編終盤における数曲は、言葉で表すなら良い意味での渾沌であり、無秩序であり、狂騒、そして魂の解放の場でしかなかった。実際のところ、千秋自身もアンコールにて

「いやー。さっきの最後の方は、意識がほぼ無かったわ」

 との感想を発していたほどだ。それだけ、DEZERTというバンドが持つポテンシャルと、千秋の内に在る衝動と衝迫がこのライヴを通して吐き出された、ということだとみてかまわないのではなかろうか。

 

 かくして。この夜から始まった[千秋を救うツアー2]は10月8日の中野サンプラザ公演まで続いていくことになるが、なんでも次のファイナルの会場では「おやすみ」という曲が無料配布されるとのことであるし、その後1025日にリリースが予定されている『撲殺ヒーロー』から『幸福のメロディ』へと改題されたDEZERT初のシングルには、「Hello」という楽曲も収録されることになるそうだ。

 

 ちなみに、千秋の中ではこの夜のオープニングで演奏された「「おはよう」」も含めたこれらを3部作として定義づけているそうなので、是非ともファンの皆様は全てをコンプリートしていただきたい。

 

 では、ここで最後にこのライヴレポにおける結論を述べよう。DEZERTのどこまでも奔放でいて、どこかがねじれた直情性。これは、到底ヴィジュアル系などという限定的な言葉で括れるようなものではない。純粋にもう、これはロックであるというだけで良いのではないだろうか。

 

 というわけで、最後に千秋がこの夜ステージ上で述べたこの言葉をもって、本レポートの締めくくりとさせていただきたい。

「前回のツアーのとき、ああいうライヴに対して「千秋ってロックバンドに憧れてんじゃないの」みたいな手紙を何通かもらったんだけどさ。もともとロックじゃ、ぼけ!」

 

 

TEXT◎杉江由紀

Photo◎西慎太一