2023年10月06日 (金)
【ライヴレポート】<HOWL 酸欠五大都市LIVE TOUR「快楽物質」-Tour Final- >2023年10月2日(月)渋谷club asia◆「間違いかも知れない俺たちが、死にたくないと言えるまで心を鳴らしていこう!」HOWL、年間3度目の“酸欠”全国ツアーファイナル。“コンプレックス”を切り裂いた結晶の夜。
REPORT - 20:00:53「これからもお互い生きていこうよね。…一人じゃ無理でも誰かとだったら生きていける。」
この夜のラストシーン、オーディエンスの目を見つめながらフロントマン=真宵が放った言葉である。HOWLというバンドがずっと抱えていたという“コンプレックス”を吐露し、自身を否定するような言葉をも経て、やっとたどり着いた孤高の地。
大げさな話ではない。この日、結成5周年を迎えた、どうにも器用に生きることが苦手な男たちが歩いてきた長い道のりの果ての景色だ。
HOWLが今年3度目となる全国ツアーのファイナルを東京・渋谷club asiaで行った。
バンドが年間に3度もツアーを行うこと自体が異例であるが、地道にライヴを繰り返すことでしか確認出来ないものがそこにはあった。
ステージとフロアの意志交換を経て、圧倒的な高みに到達する未来を予感させた夜の模様をお届けする。
10月2日、平日の夕刻にも関わらず多くのオーディエンスが会場に詰め掛けた。
その光景と同様に目を惹いたのはステージセットである。これまでO-WEST公演では背面に無骨さを想起させる鉄柵が、池袋harevutaiでは大型LEDヴィジョンと派手な演出が印象的だったが、この日は趣向が変わりyuki(Dr)の要塞の隣にDJセットが配置されている。
開演時刻を過ぎるとほどなくしてその謎は解ける。この日はスペシャルゲストとしてHOWLと古くから縁のあるKERWINがDJとして参加するファイナルならではのレアな試みが用意されていたのだ。金髪をなびかせ西洋の騎士のような出で立ちのKERWINがポジションにつくや否やビートを増すキック音に合わせてフロアからは煌びやかなリングライトのハンドクラップが巻き起こる。
ステージから放たれるレーザーとフロアを彩るリングライトのマッチアップはそれだけで壮観であったが、club asiaは元来、日本・渋谷のカルチャーを代表する老舗クラブだ。
公演のサブタイトル「-PARTY-」に申し分ない空気のなかメンバーが登場するとオープニングで披露されたのは「人間退職」。
3ヶ月連続リリースの最終作にしてHOWLの最新作だが、“人間なんかやめたい”と連呼される上に“お前に響く歌詞を教えてくれ”という放逐的なリリックが衝撃的だ。
黒と白を基調にした装いのメンバーのシルエットも相まって今までにないシックなムードを醸しながらも、一聴しただけでツアーを経てヴォーカリストとしてスケール感が増したことが解る真宵(Vo)は拡声器を使用し聴衆に己の言葉を叩きつける。
“随分変わったな…”初手にしてこれまでのバンド像が大きく刷新された印象に気を取られてしまったが、観客は縦ノリで大きく応えた。
続いた「ランドリーペイン」ではCO2の柱が立ちこめ熱気はさらに加速。感情のままに打ち鳴らし疾走するyuki(Dr)に共鳴するように巻き起こるモッシュ、ヘドバンの嵐をお立ち台から支配者のように不敵に見下ろす真宵の姿がいつにも増して艶めかしく妖しい。
▲Vo.真宵
確かにスケール感が増しているのだが、どこか何かがこれまでのバンド像と異なっている…難解なまちがい探しのように思案していたその違和感の答えは、次なる「先天性君症候群」で早くも明らかになる。フロア爆発扇動専用機として機能する定番曲、よっぴ(Gt)がマイクを使い“そんなもんか!?”と煽る場面こそあったもののメンバーは実に自然体なのだ。
これまでは愛すべき燃費の悪さと不器用さを以って導火線に着火するのがHOWL流のエモーショナルとして魅力になっていたが、年間3本目となるツアーの最終地にその姿はもはやなかった。5大都市酸欠ツアーと銘打たれた今回は各地で酸欠になるほどに暴れ乱れることが推奨された“TRIP ZONE”、ライヴ初心者向けの”GALLERY ZONE”とフロアにエリア分けがされていたのだが、当然、バンドのライヴである以上“GALLERY ZONE”の観客をも熱狂の渦に巻き込むことがひとつの正解とも考えられるが、彼らにその気負いは一切なかったのだ。そんな次元にはもうとっくにいないんだよ…とばかりに自分たちの音楽を的確に鳴らし届けることに注力する姿がそこにあった。
役目を全うし陽気なMCで会場を和ませステージを去ったKERWINがMV製作の指揮を取ったと紹介されたのは「閲覧禁止」
https://www.youtube.com/watch?v=2akjAXsyALg
HOWL 『閲覧禁止』(MUSIC VIDEO)
ミドルチューンでひと際存在感を放つゆうと(Ba)の余白を活かしたフレージングはこの日もエロティック。対照的によっぴのギターソロはシャワーのように微かな熱を帯びたもので、押し引きの妙が巧みなyukiとの楽器隊の駆け引きが真宵の歌声をセクシーに響かせる至高のものだった。ラウドな楽曲以上にミドル系の楽曲における表現の精度は前回ツアーから引き続き進化を見せていて今のHOWLの引き出しの多さに結実していると言える。
空気を再びハードネスに一変させたのは「シャーデンフロイデ」。
サイレンのように赤い照明が廻るステージ上からの“全員で今日のパーティーをお祝いしてくれないか?”の問いにフロアもヘドバンの風力でアンサーを送る。
初披露時にはアンコールも含め合計3度プレイしている曲だけあって、ライヴでの強度が段違いでありながらサビメロが流麗で耳に残るHOWL節もまた健在でこれまでになかったタイプの曲だ。
▲よっぴ(Gt)
ステージとフロアで鍛え抜かれた楽曲と言えばこれでしょ!のハードチューン連打は「ENIGMA」、「隷従エスコート」。
フロントメンバーがyukiの周りに集まり火力の高いグルーヴで扇動していく。コロナ禍に生まれた前者、パンデミック終焉の兆しが見えた今年春にドロップされた後者、それぞれの年輪は異なるものの、爆発的なノリを生む二枚看板として並んでいることがこの5年の歴史を感じさせる。気が付けば先述した“TRIP ZONE”と”GALLERY ZONE”に体温の差はなく、会場全体がよっぴのリフに合わせて頭を振りしきっている。
HOWLの4人が持って生まれた端正で時に可愛らしくもあるヴィジュアルへの反骨心から、暴動的なライヴを演出したいのではないか・・・“酸欠”と名付けられたツアータイトルを知った時にそう邪推したものだが、そんな浅はかな思考など鼻で嘲笑うように彼らは生真面目に自分たちの音楽に向き合うことで、言葉ではなく音で景色を切り拓いた。いや、切り拓いているのだ。
▲ゆうと(Ba)
“お前ら快楽物質出過ぎて頭オカシなったんかー!?”と感情が高ぶった真宵も広島弁を隠さずに語りかける。どこまでも自然体なのである。
オルゴール的なBGMをそのままイントロの導入に使用する演出が絶妙な「ボクラノシンフォニー」では弦楽器隊がアイコンタクトを取りながら“Wow oh wow”と野太いコーラスを取る姿も。
▲yuki(Dr)
多幸感に溢れた会場を見渡し真宵がマイクを取った。
“10月2日、俺たちちょうど今日5周年を迎えるんだけど、ずっと見つからないものがあったの。ヴィジュアル系バンドって大体コンセプトとかあるでしょ?わかりやすいキャッチコピーみたいな。自分らもずっと欲しいと思ってたのよ。でも全然見つからなくてさ…語弊があるかも知れないけど、俺たち仲の良い4人で集まったバンドだからテーマとかなくて。でも5年活動してきて、最近やっとこれじゃないかって言うのが…見つかりました。”
“活動してきてどこのジャンルにも界隈にも属せなかったってコンプレックスがあって…キラキラした時期もあったかと思えば、その真逆の時もあったりしました。その時その時でやりたいことをやってるんだけれど…孤独があったのHOWLはずっと。俺一人の人間としても。もしかしたら君たちは俺たちのそういうところに共鳴して足を運んでくれてるのかなって。”
“俺たちの今の心境で、感情で、…HOWLは間違い側の僕らが、死にたくないと言えるまで…そう思ってこれから音楽を作っていきます。俺たちメンバー4人が例え間違い側だったとしても、死にたくない…そう思って活動をしていくことが俺たちの正義かなと、そう思いました。”
“なんか今年すごい自分らが、自分が間違ってるんじゃないかなって、どっから間違えたんだって思う機会が多くて…ラスト、みんなに届ける曲も負の感情から生まれました。けれどライヴで共鳴してくれる人がたくさんいる、俺のど真ん中に刺さるそんな曲に育ちました。だから5周年…ラストはみんなにこの曲を届けたいなと思います。”
披露されたのはもちろん「アンダーテイカー」。
https://www.youtube.com/watch?v=4tBkWZhjCqI
HOWL「アンダーテイカー – live at Spotify O-WEST “ロゼッタ=ストーン” 2023.05.02 」
※「アンダーテイカー」については過去のレポートを是非参照いただきたい。
HOWL 過去の公演のレポートはこちら
https://archive.visunavi.com/news/456830/
https://archive.visunavi.com/news/459533/
あまりに美しいメロディを、持ちうる全ての体重を乗せることで初めて意味を成す2023年を代表する稀代の名曲。
真宵の鬼気迫る“ココロ鳴らしていこうぜ!”の叫びに魂の稲妻が落ちたラストソング。
蒼白いレーザーの中で吠え叫びながらも丁寧な歌唱に感情過多なプレイが重なる。
これまでのライヴでは外へ外へと放出するエネルギーの爆発で心臓を突き刺す…実に燃費が悪く、泥臭く、愚直な手触りだったが、club asiaに鳴り響いた「アンダーテイカー」は真宵、よっぴ、ゆうと、yukiが自己との対峙に没頭するかのようのプレイで圧倒した。
「アンダーテイカー」はリトマス試験紙のような扱いをできるような楽曲でないのは周知のことであるが、自己との対峙への没頭が誰かに届ける想いとして鳴っている事実が、まだ若い彼らの生き様そのものがメッセージとして昇華されていることに気が付く。奇しくもこの名曲を介して彼らの成長を思い知ることになるとは…
残響のなか、うつろげでありながらもしっかりと客席を見渡した真宵の姿が消える。
本編終了。
いつもは間髪おかずとんでもない声量でかかることが特徴であるアンコールも、「アンダーテイカー」に圧倒されひと時の沈黙が訪れた。
2024年3月4日(月)の渋谷WWWワンマンを含む今後のライヴ予定がスクリーンに投影されたのち、少しの間を置いて始まったアンコールではついに音源化が発表された「いきたくない」を披露。
https://www.youtube.com/watch?v=xi5SxLujycQ
HOWL「いきたくない」(MUSIC VIDEO)
情感たっぷりに届けられた優しいバラードを経て再度MCが。
“言っていいのかわかんないけど(真宵が)俺のせいで売れなくてごめんって。…いや、そんなことないよ!絶対そんなことないよって、俺らで頑張ろうよ!って言いながらも…確かに間違い側、人生でいっぱいあったよなって。キラキラ系にもなれなかったし、ロックバンドのイベント出たらヴィジュアル系じゃんって言われるし”
と想いの丈を吐露したのはよっぴだった。
かつて数字上はソールドアウトした渋谷WWW公演の実情と、それでも興行として大成功と言わなくてはならなかった葛藤までもを愛するファンの前で赤裸々に語るのが真面目なよっぴらしいところでもある。
よっぴはこの日ステージで映像のVJも行った。
“学校でバンギャルなんて少数派でしょ?俺らが夢を叶えたらみんなを幸せにできると思う。だから夢を叶えなきゃいけない。みんなにバンギャルやってて良かったって思わせたい。そう思わせるにはWWWを成功させなきゃいけない…けど、今日こんなに来てくれるならいける気がする!ありがとう!”と締めくくった。
続いたのはベースのゆうと。ゆうとは非常にトークに定評があり、その圧倒的な愛され力と実直で明るい人間性でこの日も場の空気にそぐわない(恐らく天然)ボケて(天然であってほしい)ボケまくっての大立ち回りで超大爆笑をかっさらった。
結果、内容は見事に1文字も記事に出来ない。否、彼らしい明るさで“武道館”という言葉が飛び出した前向きな事実は記しておきたい。
ドラムのyukiは「時期とかじゃなくて…出会ってくれてありがとう。確かに自分が(その時)正しいと思っていた道が間違いだったかも知れないけど、これだけは間違ってなかった…この4人でHOWLというバンドをできたことです。」と熱い想いを集約した。
真宵は「胸を張って今までで一番良いツアーだった」と少ない言葉で締めくくった。
素直な言葉を経た「ロゼッタ=ストーン」には、真宵の歌唱とポップなメロディが伸びやかに心地よく響き、MCにもあったような何かしらの系統・界隈などに棲み分けることが不要な説得力を感じた。
“どんなに躓いてもまた走りだせるための音楽を!”とラストに届けられたのは「#prologue」。
メンバーとオーディエンスが互いの想いを確かめ合うような空間は、ステージにもフロアに隔たりなど微塵もなく甘酸っぱくも爽やかなフィナーレに包まれた。
余談だが、以前メンバーが“バンドの顔とも言えるとあるキラーチューンを超える曲を作りたい”語っていたことがある。
この日のセットリストを見るとそのキラーチューンは存在しない。終演後、真宵にその意図を尋ねたところ他意はなく“封印”でもないようだ。数か月前に課題にしていたことなどちっぽけでどうでもいい次元までバンドが進化したことの一端と言えるかも知れない。
自分たちのアイデンティティに悩み、探求の旅に今年3度も出た彼らが手にした自然体の説得力、もちろんその裏に挫折や苦悩もあっただろう。
しかし、この活動期間には得たものも大いにあったはずだ。
在りのままのHOWLでいることが最たる存在意義に変わった夜のラストシーン。
「これからもお互い生きていこうよね。…一人じゃ無理でも誰かとだったら生きていける。」
真宵は去る前に続けてこう叫んだ。
「間違いかも知れない俺たちが死にたくないと言えるまでお互い心を鳴らしていこうぜ!!」
有名アスリートの名言に“自信が確信に変わりました”というものがある。
歩みは人それぞれかも知れないが今のHOWLにもそんな日が近く訪れるかも知れない。
大晦日には<V系って知ってる! -VISUAL ROCK COUNT DOWN 寸前GIG 2023->への出演も発表された。
準備運動は終わりだ。
覚醒した彼らを、時代が見つけるのが先か?それともアナタが見つけるのが先か?
6年目の逆襲が今、始まる。
文◎山内秀一
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<セットリスト>
SE.快楽物質
1.人間退職
2.ランドリーペイン
3.先天性君症候群
4.宇宙世界
5.閲覧禁止
6.honey♡drunker
7.シャーデンフロイデ
8.UNVENUS
9.ENIGMA
10.隷従エスコート
11.ボクラノシンフォニー
12.アンダーテイカー
EN1.いきたくない
EN2.ロゼッタ=ストーン
EN3.ANOTHER BIRTHDAY
EN4.メロドラマ
EN5.#prologue
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■HOWL ALBUM TOUR
間違い側の僕らが、死にたくないと言えるまで
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2024年2月20日(火)【愛知】今池CLUB 3STAR
2024年2月21日(水)【大阪】心斎橋CLAPPER
2024年2月27日(火)【宮城】仙台Space Zero
2024年3月4日(月)【東京】渋谷WWW
公演名:異分子共鳴
日程:2023年12月7日(木)
会場:渋谷RING
公演名:HOWL YUTO BIRTHDAY LIVE LOVE & PEACE
日程:2024年2月12日(月・祝)
会場:池袋EDGE
真宵単独主催公演決定!
日程:2024年2月15日(木)
会場:渋谷REX
公演名:V系って知ってる! -VISUAL ROCK COUNT DOWN 寸前GIG 2023-
日程:2023年12月31日(日)
時間:OPEN 12:30 / START 13:30
終演時間:21:00予定
会場:EX THEATER ROPPONGI
出演:HOWL/DEZERT/キズ/甘い暴力/色々な十字架/鐘ト銃声/グラビティ/ビバラッシュ/Ashmaze./CHAQLA./nurié/VIRGE
2023年冬、NEW ALBUM RELEASE!!
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