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2023年11月12日 (日)


【ライヴレポート】<ベル LAST ONEMAN TOUR『残鐘のエピローグ』-TOUR FINAL->2023年10月29日(日)渋谷WWW X◆──もし、この世に“理想の解散”があるとしたら。それは、きっとこんな光景に違いない。

REPORT - 19:00:45

もし、この世に理想の解散があるとしたら。それは、きっとこんな光景に違いない。

 

終演後のバックスクリーンに浮かび上がる「Fin」の文字を前にそう確信したほど、ベルが最後に見せたステージはあまりにも美しい解散だった。

 

「解散が決まったからと言って、僕ら自身は何ひとつ諦めたとは思っていない。メンバー全員が、最後の瞬間まで強気に上を目指し続ける。そして、1人でも多くの人から『もったいない』という言葉を引き出したい。」

 

現体制初となるフルアルバム『哀愁ロマンチカ』ではベルの現在進行形の魅力を、そしてラストワンマンツアーではバンドの可能性を提示。各メンバーがプロデュースした趣向を凝らしたコンセプトワンマンや、同じ時代を共に闘ってきた絆のあるバンド達との2MAN企画『あの頃の僕たちは』の開催、そして数々のイベント出演と、解散発表後のインタビューでのハロの言葉どおり、この半年間、彼らは常に攻めの姿勢を貫き、バンドの過去最高を更新し続けてきた。

 

そして迎えた、20231029日・渋谷WWW X

チケットは完全SOLD OUT、ベルのラストステージを見届けようと全国から多くのファンが駆け付けフロアを埋め尽くした。

 

17時。定刻通りに暗転、赤いライトが点滅してSEが流れ出せば、場内は手拍子に包まれる。ルミナ・正人・明弥・タイゾが順に姿を現し、最後にハロがセンターへ立つと、大歓声が5人を包んだ。

 

最終公演は、2014年の始動発表ライヴと同じ『あの日の僕の君と雨』で幕を開けた。降り注ぐ雨粒のようなギターの音色、メロディアスに揺れ動く感情を表現するようなベース、窓に打ち付ける雨音のようなドラム、そして擦れ違う想いを言葉に乗せ歌い上げるハロの歌声が響くと、瞬く間にWWW Xベルの音楽で染め上げられた。

 

続く疾走感のあるシャッフルナンバー『微熱』でフロアが徐々に熱を帯びると、『週末レイトショー』ではカラフルなライティングとミラーボールにピアノとホーンが映えるダンサブルなサウンドで世界観を色濃く演出し、オーディエンスを一気に高揚させていく。

 

 

「みっともなくたっていいよ、足掻いていこう。」間髪入れず演奏された『さよならムービースター』、疾走感あふれるイントロからフロアは左右に大きく手を振り揺れる。七転八倒おおいに結構 劣等生なら胸を張れ!随所で光る明弥のスラップに乗せてルミナの力強いRapが響き渡れば、フロア一面に色とりどりの扇子が舞った。

 

暗転したステージに響いてきたのは、古びたアコーディオンの音色。どこか怪しげで不安に駆られるそのメロディーは、歌謡サスペンスをコンセプトに掲げているバンドならでは。「ベルとお前たちの『ドラマ』。」アコースティックギターに持ち替えたタイゾのギターパーカッションを交えた演奏が、夜の街に溶けた哀しい恋模様を歌う楽曲のスパイスとなって響く。ピンスポットに照らされた明弥と正人によるアウトロが遠ざかっていく足音のようで、痛切に幕切れを感じさせた。

 

「さぁ、渋谷。手拍子を聞かせてくれるかい?」一転、正人の軽やかなリズムとルミナの澄んだギターの音色が柔らかな光と風を呼び込んだ『季節風』。君が幸せならそれでいい相手を大切に想うが故の別れの物語は、変わりゆく季節の中に1人取り残されたような切なさとやるせなさを纏って響いた。

 

続いて最新作で誕生した哀愁漂うミディアムナンバー『惰性を喰む』は、リズムセクションにギターが絡んでいくお洒落なライヴアレンジが加わったことでその世界観に一層深みを増し、不遇な恋と理解しながらも身を焦がす女性の想いを歌うハロの色気の増した歌声がオーディエンスを魅了する。

 

「さぁ踊ろうか、渋谷!」、その言葉に一斉に扇子が舞った『人間交差点』。誰かにとっての特別を 欲しがっただけだよ都会で感じる孤独をストレートな歌謡ロックに乗せて描き出すと、会場が大きく揺れた。

 

 

 

 

ルミナが繊細に奏でるギターが空気を一変させ、タイゾの泣きのフレーズとピアノが加わってムーディーな世界に惹きこんだ『綿飴』。主人公が憑依したかのような表情や仕草を見せながら、少しハスキーに歌い上げるハロ。シチュエーションは違えど『惰性を喰む』と同じく甘美でほろ苦い大人の恋模様を描いた楽曲は、今のベルだからこそより磨きがかかって魅力的に感じた。

 

淡いピンクのライティングが舞い散る花びらのように映った『サクラグラフィー』、ノスタルジックなメロディーが会場を包み込む。サクラひらひら 写真みたいに綺麗なままでいたかった”“サクラひらひら 写真だけが綺麗なままで痛かった。過ぎていく時間、変わっていくものと変わらないもの。美しくて筆者も大好きな楽曲だが、シチュエーションも相まって胸の真ん中がチクチクと痛くなってしまう。

 

「一緒に騒いでくれるか!声!」そんな感傷的な空気を一蹴するようにハロが叫ぶと、明弥とルミナが続いて声を出す。タイゾがフロアに向かって挑発する仕草を見せると、あっという間に戦闘態勢に入った『カラータイマー』、代わる代わる煽る5人に負けじとフロアも拳と声を上げ、会場の温度が瞬時に上昇していくのを感じた。

 

 

 

 

息つく間もなく1st single『ノンフィクション』へ、「揺らせ!」の声にフロア全体がジャンプして大きく波打つ。先導するまでもなく、楽曲に合わせて横揺れ・手拍子・ジャンプを繰り返すオーディエンスたち。一体感に満ちたその様子を眺める5人の笑顔がとても印象的だった。

 

 

 

 

奇しくも、ハロウィンを目前に控え戦々恐々とした渋谷の街のど真ん中で開催されたこのライヴ。何かと注意喚起の報道が盛んな時期だったが、この場所は別。「ライヴハウスにいるお前たちはどれだけ馬鹿になったっていいんだ、馬鹿になろうぜ!」とフロアの箍を外させた『RED』、真っ赤なライトとレーザーに照らされたフロアは一層大きく揺れる。「いいね、揺れてきた!」とハロが笑えば、軽快にステップを踏むルミナ、のけぞるようにギターを掻き鳴らすタイゾ、まだまだとばかりに煽りながらスラップを聴かせる明弥、タイトにリズムキープしながら笑顔で歌詞を口ずさむ正人。メンバーもオーディエンスもとにかく楽しそうだ。

 

 

 

 

 

「この街はうるさいから、君たちの声で掻き消してよ。愛を!」正人のカウントで勢いよくスモークが噴き出せば、すぐさま拳が突き上がり大きな声がステージへと返される。第1幕のラストは、ルミナ加入時に誕生した歌謡ロックなキラーチューン『愛と免罪符』でアグレッシブに駆け抜け、5人は一旦ステージを降りた。

 

新旧織りまぜたセットリストで楽しませてくれた第1幕。始動から解散まで歌謡というコンセプトを貫き通したベルは、ルミナのRapやタイゾのギターパーカッションといった新たな武器を取り入れ可能性を拡げながら、プライドを持って楽曲を生み出してきたことを再確認させられた。

 

メンバーがステージを去ると、後方の幕が開きバックスクリーンに残鐘のエピローグツアーのロードムービーが映し出される。

 

各地のライヴとオフショットの数々にはラストツアーで彼らが過ごしてきた時間の片鱗が詰め込まれていて、大切な宝箱を覗かせてもらったような嬉しい気持ちになった。楽屋でのメンバーの和気藹々としたやり取りには時折笑い声が上がり、解散ライヴ特有の緊張感が完全に解けたところでライヴは第2幕へ。

 

2幕のオープニングを飾ったのは、『午前3時の環状線』。跳ねたリズムと華やかなホーンセクション、セピアに褪せた煌びやかさとでも言いたくなるような、ベルならではのセンスが光る歌謡レトロ感が心地いい。

 

ガラスの青に包まれたライティングに切ないメロディーが良く似合った『ビードロ』と立て続けにシングル曲を披露し、歌い出しをアカペラにして魅せた『もう一度』へ。初期の楽曲が続いたことで、活動当初から本当に良質な歌謡を生み出していたんだなと改めて実感する。

 

そして、艶やかな琴の音に彩られ遊女の哀しくも純粋な恋が描かれた『万華鏡』では、和が全面に押し出された楽曲とリリックビデオにメンバーの衣装が相まって、聴覚的にも視覚的にもこれぞベル世界観が美しい。ただただ見惚れているとSEが流れ、会場の空気は一変。

 

 

 

 

「さぁ渋谷、最終共闘だ」拡声器を片手にハロが言い放ち叫び始まった『拡声決起ストライキ』ではステージが真っ赤に染まり、レーザーが空間を切り裂く。学生運動をモチーフにしたMVをバックに、ハロの射抜くような眼差しがフロアを見据え、楽器陣の演奏もヒリヒリとした緊張感と鋭さを増す。

 

 

 

 

 

「君が君のために生きなければ、誰が君を救ってやれるというのか。」

 

コロナ禍の鬱屈とした時期に誕生したこの曲はベルの中では異端視されることが多いのかもしれないが、そこに込められた問い掛けと自らの命を誇れる生き方をする覚悟は、未だ混沌を極める世界の中で私たち11人が改めて対峙すべきメッセージとして突き刺さる。

 

ピックを咥えたタイゾが再びアコースティックギターでギターパーカッションを交え、スパニッシュなフレーズを鮮やかに奏でる『アモーレ』。冒頭の「アモーレ!」のコールを合図にラテンなリズムに合わせてオーディエンスが両手を打ち鳴らして踊り出す。情熱の赤とミラーボール、ベルならではの異国情緒漂う歌謡に酔いしれた。

 

「思えば9年と少し前、僕は何故だか不思議とまだ見ぬ最後の日を思い浮かべながらこの歌詞を書きました。それなのに、いざ今日という日を目の前にすると、どこか躊躇いにも似た感情が湧いてきます。でも、どうか受け取ってくれたら嬉しいなと思います。これは、9年間したため続けた僕たちからの手紙です。」

 

ごめんなさい どうか忘れて下さいそう繰り返される『ワスレナグサ』は、ファンへの懺悔にもバンドへの鎮魂歌にも聴こえて胸を抉られるような気持ちになる。

 

しかしこの曲が生まれた当時、ハロはブログにこう書き記していた。

 

「ワスレナグサ。花言葉は『私を忘れないで』。花は雄弁にそれを語る。そんな物語です。」どうか忘れてください――言葉とは裏腹な5人の願いがエモーショナルに響き渡った。

 

「もう少しだけ、ここに居てもいいですか?」そう語り掛けた『ルフラン』、ハロが寂しさを振り切るように「いくぞ、東京!」と叫べば、明弥が「まだまだいけるだろ!」と続く。涙を振り払い声と拳を上げるオーディエンスに、ルミナも拳を振り上げ笑顔で応える。タイゾがギターソロを弾く後ろで4人がドラム台に集まってキメを合わせる楽し気な姿、こんな場面も見納めかと思うとまた悲しい気持ちに押し切られそうになってしまうが、そんな感情を吹き飛ばすように『天』でまた明弥が「ぶっ飛べ、まだまだ足りねえぞ!」と喝を入れ、ハロが「楽しんでいいんだぞ、東京!」と呼び掛ける。フロアは高く高くジャンプを繰り返しメンバーに想いをぶつけていく。

 

「ラストいこうか!あの夜を迷わぬように、導け『乙女劣等行進曲』!」第2幕のラストは、現体制始まりの曲だった。ツインギターを全面に打ち出した勢いのあるサウンドが、ライヴで一層その真価を発揮する。「照らしてやるよ。舞いなさい、東京!」、一面に扇子が舞い踊る様は実に壮観。正人が和太鼓のニュアンスを感じさせるドラミングを見せれば、明弥は重低音を響かせながらステージングでもオーディエンスを魅了し、ルミナとタイゾは息もピッタリなギターソロを聴かせる。そのセンターに立ち、常に会場の空気を先導して凄みすら感じさせるハロ。大歓声に見送られてステージを降りる5人を見つめながら、本当に今日で解散するんだっけ・・・なんて言葉が頭を過ってしまったほど、完璧な本編だった。

 

すぐさま沸き起こったアンコールに応え、ステージに戻った5人。1曲でも多く聴いて欲しい想いからだろう、ここまでMCらしいMCはせず24曲を演奏していた彼らがアンコールを迎えてようやく語り始める。

 

「改めまして、残鐘のエピローグツアーファイナル、渋谷WWW Xにご来場いただきましてありがとうございます。楽しめてる?」そう問い掛けつつ、ハロは楽器陣にも言葉を求める。明弥が「本当にたくさん集まっていただいて感謝感激です、ありがとう。たくさんツアーをまわってきて、今日のライヴが僕たちにとって最高のライヴになるようにずっとイメージしてきたんですけど、やっぱり俺はまだ実感が無いから・・・楽しいよ、凄い楽しい。この景色が見られて凄く嬉しいです、ありがとう!」と満面の笑みを見せ、「ルミナくんが凄く緊張していたということで・・・緊張した?()」と、今度はルミナに話を振る。

 

ルミナは「ガッチガチにね・・・。」と苦笑いで返答。更に明弥が「ルミナくんはいつもライヴ前に緊張で嗚咽するんですけど、それが今日は3倍盛りくらいになっていて()。」と暴露すると、「いつもは本番前だけなのに、今日は午前中からやっていたよね()。」とハロも続く。2人の言葉に「嗚咽疲れしちゃって()。」と笑うルミナに、「そんな言葉、初めて聞いたわ!」と笑顔を返すメンバーたち。和やかな空気が微笑ましい。

 

「まっさんはどうだい?」と訊かれた正人は、立ち上がりモデル顔負けの端正なビジュアルを振りまき自己紹介をすると、「いつものやってもいいかな?」とおなじみの「正人さんはいつでもー!」「カッコいいなぁ!」のコール&レスポンスで楽しませる。フロアは大盛り上がりだったが、ふと我に返った様子で「地元からも友達が来ているんでした、凄い恥ずかしいです()。」と爆笑を誘い、「本当にこんなにたくさんの人に来てもらえて幸せいっぱいです、ありがとうございます!」と締めた。

 

タイゾが「もう結構な曲数をやったんだけど、まだ全然実感が無いんですよね。たぶんこのあたりではもうあ、もう今日でベルは終わりなんだ。って気持ちになる予定だったんですけど、実感が無さ過ぎてちょっと怖い。」と正直な胸中を明かせば、ハロも「わかる。俺も昨日のイメトレの中ではもう3回泣いている。」と同意してフロアの笑顔を誘う。「俺も、昨日のイメトレでは『ワスレナグサ』は泣き過ぎて弾けない予定だったんだけど、弾けちゃったんだよね()。だから、凄い楽しいけど今日が終わった後が怖い。でも、そんなことは考えずに最後まで楽しんでいきたいので、よろしくお願いします!」メンバーそれぞれの言葉にフロアからは大きな拍手が送られた。

 

最後にハロが「改めまして、ソールドアウトありがとうございます。そして、配信で観てくれている人たちも居ます。僕らのこのライヴをしっかりと見届けようとしてくれて、本当にありがとうございます。僕らは、今日終わりを迎えたのではなく、この半年間でみんなと一緒に終わりを創ってきたと思っています。だから、このツアーは色んな所で色んな人に会えて、凄く楽しかったし嬉しかった。でも、その分、やっぱり悔しさとか不甲斐なさとかそんなことも感じました。でも、これほどまでに心が揺さぶられた日々を僕は絶対に忘れない。もし、ここに居る君たちが忘れてしまっても、僕たちは絶対に忘れない。それだけはさ、嘘じゃないよ。」

 

そう言って始まった『真っ赤な嘘』、ルミナとタイゾが向かい合って聴かせたハモリのツインソロを筆頭に、これぞヴィジュアル系の醍醐味と感じさせる疾走感に満ちたサウンドとキャッチーなメロディーがフロアを飲み込んでいく。

 

「さぁ、渋谷。君たちのその可愛いおててを頭の上へ。」手拍子が左右に揺れた『四面想歌』は、金管楽器と鍵盤の音色と正人の細かなドラムフレーズが映えるベルの王道ロックナンバー。ちょっと翳のある明るさが何ともらしい”1曲を経て、ハロの「楽しむ準備はできてるか?響かせてよ、渋谷!」の煽りから『やってない』へなだれ込むとフロアがまた大きく動き始めた。明弥の「3.2.1!」のカウントに合わせて声を上げ高くジャンプし、サビでは綺麗に揃った手振りで応えてみせる。そしてルミナのRapに合わせて左右モッシュを繰り広げる様子に、メンバーたちも楽しげな表情を見せていた。

 

 

 

 

 

 

「今からする話は凄く自分勝手な話だとわかっているんだけど、発表してから半年、色んなところで今日よりも先のスケジュールを見つけてしまうのが嫌だった。辛かった。どいつもこいつも幸せそうに見えて、苦しかった。だけど、今目の前に映る景色は誰が何と言おうとまごう事なき幸せで。今の僕にはわかる、だから、こんな歌が歌えるんだよ。」

 

そう言って演奏された『きみのまま』は、メンバー自身、そしてベルというバンドが9年間で経験してきた葛藤と、辿り着いた今の想いが重なって聴こえた。周囲と自分、理想と現実、想像もしていなかった世界の変化、叶えた夢と叶えたかった夢。たくさんの喜びと同時に、数えきれないほどの悔しさも経験してきたのだと思う。それでも信念を貫いてこの景色を手にした今の彼らだからこそ、全てを肯定する強さを持って響いた。

「もう少しだけ、この夢の中で歌わせて。今日、君たちをこの夢から解き放つ。『わるいゆめ』。」。涙でぼやけたステージを見つめていたら、何だか本当に夢の中に居るような、夢の中でステージ上の5人を観ているような、不思議な感覚に襲われた。哀愁と疾走感のある優しいメロディーが、明日からも前を向いて生きていけるようにそっと背中を支えてくれていたが、まだ現実に引き戻されたくないと必死に抵抗したくなる。

 

この歌はせめて 君だけのものにしてよ 春よ 来てよ

 

エンディングでハロがアカペラで歌い上げたフレーズの余韻を噛みしめながら、一度目のアンコールは終了した。

 

またしても沸き起こる大きなアンコール。2回目のアンコールは、明弥と正人によるリズム隊セッションからスタートした。

 

明弥がセンターに立ち「WWW X、まだみんな元気だよね!」と三三七拍子のリズムに合わせて「あきや!まさと!あきやとまさと!」とハイテンションにスタートすると、まだまだこれからと言わんばかりに2人が交互に煽っていく。今回のワンマンツアーの各地で進化してきたこのセッション、ファイナルはスペシャルバージョンとして2パターンを続けて演奏してくれた。ベルが誇る華やかで魅せるリズム隊が、それぞれのソロを交えながら9年間に培った阿吽の呼吸で繰り出していくグルーヴィーなサウンド。骨の髄から震わせる重低音とパワフルなリズムに、思わず身体が揺れる。

 

徐々にテンポアップしてエンディングを迎え、「ダブルアンコール、まだまだいけんだろ!」と明弥が叫んだところで、ハロ・ルミナ・タイゾが合流して勢いそのままになだれ込んだ『東京蜃気楼』。「かかってこい!」そう簡単には倒されないと言わんばかりにお立ち台で両手を広げたハロに、フロアは全力で拳と声を返していく。

 

「まだまだやれるかい?かかってこいよ!」と畳みかけるように『哀愁エレジー』。ハロがニヤリと笑いスモークが噴き出せば、ベル流の“THE VISUAL ROCK”が会場の熱をさらに上昇させていく。「今日はソールドアウトらしいじゃないか。ということは、俺たちが今まで聞いたことがないようなバカでかい声が聞こえるはずだ。そうだろ、東京!」その言葉に楽器陣が容赦なくフロアを煽れば、空間が震えるほどの声で応戦するオーディエンスたち。ルミナ・タイゾ・明弥がステージ際まで身を乗り出し、正人が一心不乱にスティックを振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

「ここからは俺たちとお前たちのライヴの時間だ。」初期のベルにとっての“THE VISUAL ROCK”が『哀愁エレジー』であったなら、現在のベルにおけるそれは『グリムドアンダーランド』と言えるかもしれない。ダークなおとぎ話的な怪しい世界観の歌詞と、より奥深い場所へと引きずり込むRapセクションにシャウトの応酬。手扇子・折り畳み・左右モッシュと、ヴィジュアル系ライヴの盛り上がり要素を全て取り込んだ楽曲は初披露から驚異的な一体感を生み出したが、この広い会場でもそのポテンシャルを存分に発揮してみせた。

 

「今日という日を迎えてこのステージの上に立つまで、僕らが一体どんな気持ちになるのかわからないでいました。でも、きっとそれって僕たちだけではないんじゃないかなって思います。ここに集まった君たちも、ライヴが始まるまで、どんなライヴになるのか、どんなことを思うのか、わからないままここまで来たと思います。でも、人生ってそんなものじゃないかなって。おそらく、僕たちが半年前に君たちに向けて発表したあの話も、君たちにとっては青天の霹靂みたいな出来事で。人生って、何があるかわからない。そういう筋書きの無い旅を、僕たちはずっと続けてきたんだ、君たちと一緒に、ずっと続けてきた。だから、みんなと一緒に歩いてきたこの9年間というものを、今日僕たちはここで肯定しようと思う。君たちと一緒に歩いてきた9年間が間違いじゃなかったって感じたいし、そう感じてもらいたいと思う。残り少ない時間にはなってきてしまったけど、まだまだ楽しんでいこうか!叫べよ!『真夏のバラッド!』」

 

会場の床が驚くほど振動した左右モッシュからもこの瞬間を楽しみ尽くそうという全員の想いが伝わってきて、過去一番と言えるほど大きかった「あーいーたーい!」のレスポンスにはメンバーたちも心底嬉しそうな表情を見せた。

 

しかし、これまで幾度となく耳にしてきた何度季節通り過ぎでも 忘れることはないのでしょうというフレーズを聴いた時、ひたすら前を向いて走り抜けたこの夏の記憶を初めて振り返ったような感覚になり、息が出来なくなるくらい胸が締め付けられた。

 

アウトロでハロが口にする「いってらっしゃい」も、この時ばかりはいつもと違った意味に聞こえて痛烈に終わりを感じてしまう。ライヴでの想い出が多い曲程、楽しさと同時に切なさも増してしまう気がした。

 

9年間。言葉にすると一息で言えてしまうこの9年間という言葉が何だか空しくて、名残惜しくて。だから、わざと遠回しな言葉を使ったんだ。でも、その遠回りもここまでみたい。この広い世界で僕たちを見つけてくれた君たちと、愛すべき36の季節に今、栞を挟むよ。」

 

時間は残酷に終わりへと針を進めていく。微睡 懐かしい夢を見た両手でマイクを包み込み歌い出すと、スクリーンには『ラストノート』のMVが映し出された。

 

ベルの音楽を愛し、ライヴに足を運んだり、楽曲を聴いて応援してくれたファンの人たちへ。共にステージに立ち、多くの作品を生み出し、喜怒哀楽全ての感情を分かち合いながら歩んできたメンバーたちへ。愛しい日々への感謝を書き綴るように、ひとつひとつのフレーズが想いを込めて紡がれていく。

 

忘れない ありがとう

 

両手いっぱいの花束みたいに美しい音色と言葉を届けた5人は、切なくも優しい表情でステージを後にした。

 

一瞬たりとも途切れることなく続いたアンコールの大合唱に三度ステージに戻って来たメンバーたちは、感慨深げな表情を見せる。

 

「またここに呼び戻してくれてありがとうございます。ここまで、34曲終了しました。正直、昨日も全然実感できなくて、今日ここに立ったら実感するんだろうなと思って来たんですよね。実際、今日やってきた色々な場面で色々な想い出が巡ったり、終わりというものを実感する瞬間はあったんですけど、こうやってみんなが大きな声で求めてくれて、『まだまだやっちゃおうか!』ってメンバーと話をして。もう少しだけ、このステージの上で足掻いてやりたいと思うんですけど・・・渋谷、まだまだ抗っていけますか?俺たちはまだここに立ってる、ピークはまだまだ先だ!足掻いてやろうぜ!」

 

 

 

 

 

真っ赤な世界にスモークが噴き上がり『見世物小屋は鳴り止まない』がタイトルコールされると、イントロのギターリフから再び場内のボルテージが急上昇するのを感じた。「足りねえよ!」と明弥が煽れば、「いつまでもこの鐘、響かせろ!」とハロが叫ぶ。まだまだベルの音は鳴り止まない。

 

「今日まで何度も立ち止まりそうになったことがある。立ち止まる理由なんてたくさんあった。でも、その度に僕たちの背中を押してくれた曲がある。半年間ずっとできなかった曲で、今から君たちの背中を押すよ。」

 

青い空と白い雲に、大きな1本の樹。『未来予報士』のタイトルが浮かび、歌詞の世界を可愛らしいイラストで表現したリリックビデオが流れ出す。「9年間、その手を離さないでいてくれて本当にありがとう。」隅々まで見渡して11人に語り掛けるように歌うハロ。瞳を潤ませながらも歌詞を口ずさんで笑顔を見せるルミナ。優しい表情でフロアを見つめ続けるタイゾ。顔を伏せて演奏している正人と、それに気付き寄り添うようにドラム台に腰掛ける明弥。

 

 

 

 

 

もしも君が道に迷って膝を抱えていたら 僕が横で耳に心で語りかけるよ”“君が笑う今も未来も 抱き締めるから。この先どんなことが起きても、再生ボタンを押せば必ず、ベルの音楽が支えてくれる。あたたかなメロディーが心に光を灯し、いつだって優しく背中を押してくれる。きっと大丈夫、なんとなくそんなメッセージを受け取った気がした。

 

「『ラストノート』を書いたあの日から、最終公演は絶対に36曲で終わらせようと思ってた。だけど、ツアーをまわってきて、これからも僕たちが作ってきた音楽を君たちが愛して聴き続けてくれるなら、君たちと一緒に37個目の季節にも行けるんじゃないかと、そう思えた。だから、本日37曲目。この曲に未来を託すよ。」

 

36の季節を越えてきたバンドが、その先の一歩に選んだ最後の曲は、最新作の中でバンドの可能性を歌った『残鐘』だった。イントロが鳴り出し、「お世話になりました!」そうハロが口にすると、自身のプライドだと語っていた襟足を躊躇なく切り落とした。終わらせることの覚悟を目に見える形で示されて、一気に目頭が熱くなる。本イントロに入る瞬間、フロアに銀テープが舞い上がり、視界一面がキラキラと輝く。

 

 

 

 

 

感情が溢れ出したメンバーたちが何度も顔を歪めながら全身全霊を込めて演奏し、オーディエンスも全力でそれを受け止める。

 

「どうか、どうか、今日の想い出を、僕たちの9年間を、この先も連れて行ってあげて。」

 

疾走感に満ちた楽曲が走馬灯のように記憶を駆け巡らせ、会場中が惜別の涙に溢れていた。それでも、明弥・正人・タイゾ・ルミナときっちり最後のソロを決め、ハロは決して歌声を途切れさせない。その姿からは、音楽を、言葉を、しっかりと伝えきるんだ。という強い想いが痛いほど伝わってきた。

 

9年間、たくさん不安にさせたと思う。たくさん我儘も言った。でも、今これだけは言わせて。本当にお世話になりました!俺たちがベルでした!」

 

エンディングに向かう中、メンバーがドラム台に集まった。最後の1音を鳴らせば、ベルの全ての活動が終了する。見守るファンも一切声を上げず、時が止まったような静寂。本当に、このまま時が止まってくれたら。そんなことすら願ってしまう静寂だった。

 

ハロがメンバー全員を見回し、「やりきったよな?」と意思を確認するように声をかけると、4人が頷いた。「終わろう。」静かに意を決した言葉をきっかけに正人がスティックを振り下ろし、5人は心をひとつに最後の鐘の音を大きく打ち鳴らして9年の活動に幕を下ろした。

 

エンディングSEが流れ、全てを出し尽くした5人は、天を仰いだりステージからの光景を目に焼き付けるようにじっとフロアを見つめた後、代わる代わる抱き合い拳を合わせて感謝を伝え合う。途切れることなく続くメンバーを呼ぶ声。ハロが「改めて、ベルの事を好きになってくれてありがとう。」とファンに感謝の言葉を述べ、「今日みんなからもらったこの景色を糧にしていきたいから、付き合ってもらってもいいかな?」と記念撮影へ。シャッターを切る度に「ベル最高!」と声が飛び、「ありがとう。」と泣き笑いの表情を見せるメンバーたち。

 

「楽しかったかい、東京?」問いかけに大きな歓声が上がる。「名残惜しいんだけど・・・どうか、僕らが残した願いを、これから先も紡いでいってくれたら嬉しいなと思います。本当に、9年間お世話になりました!」ハロの言葉に合わせて、深々と頭を下げるメンバーたち。最後まで頭を下げ続けたハロは、「元気でいろよ!風邪ひくなよ!」といたずらに笑いマイクを置いた。明弥は「9年間、本当にありがとう。みんなから凄い幸せをもらえた9年間でした。」と声を震わせながら伝え、最後は笑顔で「愛してるぜ!」と叫ぶ。タイゾがオーディエンスに拍手を送り、ルミナはピックを投げ手でハートを作ってみせた後、大きく手を振ってステージを後にした。

 

最後までフロアを見つめていた正人が「終わってしまいますね。本当に人生って選択と分岐の繰り返しだと思うんですけど、俺が少しでも違う道を選んでいたら今こうして君たちと出会えていないかもしれないわけで。今、泣いてくれているみんなとか、幸せそうにしてくれているみんなの顔を見られただけで、本当に凄く良い選択をしたんだなと思いました。それは、きっと君たちもです。君たちもこうやって選択をしてくれたから、俺たちはお互いに出会えたんだと思います。本当にありがとう。これから先、どんな分岐があったとしても、絶対に今日のこと、君たちのこと、忘れないので。本当に、9年間ありがとうございました!」そう言って頭を下げ、悲鳴のような歓声にマイクを通さず「ありがとう!」ともう一度叫んでステージを降りると、スクリーンに「Fin」の文字が浮かび上がり最終公演は終幕した。

 

37曲、約4時間。

 

9年間の集大成であるステージを最高の形で完遂した5人に、心からの敬意を。

 

そして、解散発表から最後の日まで、ツアー・ファン旅行・インストアイベントなど、共に過ごし心の準備をする時間を最大限に用意してくれたことにも改めて感謝したい。

 

思い残すことが無いように走り続けた半年間と、当初の目標どおり過去最高を更新してみせた最終公演。「解散なんてもったいない!」と大声で叫びたいほど、ベルは最後の瞬間まで最高にカッコいいバンドだった。だからこそ、どんなに寂しくても、今はこんなにも美しい終わりを見せてくれた5人の背中を「またいつか!」と笑顔で見送るべきなんだと思うことができた。

 

36の季節の中で描かれた95曲の素晴らしい宝物と抱えきれない程の想い出は、これからの季節も変わらずに輝き続ける。

 

「これからも、僕たちが作ってきた音楽を君たちが愛して聴き続けてくれるなら、君たちと一緒に37個目の季節にも行けるんじゃないか。」

 

ハロの言葉通り、この先の季節にベルの音楽を連れて行くのは私たちの役目だ。

バンドと楽曲を愛し続ける人が居る限り、音楽はいつまでも生き続ける。

だから、これからも巡る季節を共に歩んでいきたい。

鐘の音は、永遠に、高らかに鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

文:富岡 美都(Squeeze Spirits