2022年04月23日 (土)
★必読対談企画・最終回★第伍夜【ハロ(ベル) × 双真(Ashmaze.)】<ベル主催『サクラ大戦-REVENGE-2MAN LIVE』>次回は2022年5月1日(土)高田馬場CLUB PHASE!
NEWS - 20:00:41現在、絶賛開催中のベル主催『サクラ大戦-REVENGE-2MAN LIVE』。
2020年に開催予定もコロナ禍の影響により中止を余儀無くされた企画が、パワーアップして遂に実現した。
それを記念して、ベルのVo.ハロが各バンドのボーカリストを招いてお互いのアーティスト性や人間性を深く掘り下げる対談企画が始動。
最終夜となる第伍夜のゲストは、Ashmaze.の双真。
音楽に救われた過去を持つ2人が語る、“歌い続ける理由”と“自分自身との向き合い方”とは。
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◆「2MANについて」と「コロナ禍」のお話。
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ハロ:2年越しでまた出演をご快諾頂きありがとうございます。
双真:こちらこそ、またお誘い頂いてありがとうございます。
ハロ:元々サクラ大戦は2020年に開催予定だった企画で、まだAshmaze.さんが始動して間もない時期でしたよね。
双真:はい。当時、お話を頂いた時は少し躊躇いもあったんです。やっぱり、始動したてのバンドと活動歴の長いバンドでは明らかに完成度が違うので。
ハロ:あの時期のベルは、ちょうど今の5人体制になるタイミングだったんです。一時期は3人だったバンドが、2019年10月にルミナの加入で4人に、そして2020年3月にタイゾの加入で5人になって。メンバーが代わって、元々はワンギターだったバンドがツインギターになった事で、音のバランスやライヴでのステージングにも変化があったんですね。バンドの活動年数としてはあの時点で6年くらいでしたが、自分達としてはまた新たな気持ちで歩み始めたし、フレッシュで勢いのあるバンドさんと対バンしたいなと思ってお誘いしたんです。躊躇ったのに受けて下さったのは何故ですか?
双真:Ashmaze.には同期と言えるバンドがほぼ居ない事もあって、先輩と対バンさせて頂く機会が多かったんです。
ハロ:それは、Ashmaze.に対する期待値の高さによるところでもあったと思います。それぞれのメンバーのこれまでの活動の積み重ねが、バンドへの期待値に繋がった。
双真:そう言って頂けるとありがたいです。
ハロ:でも、結局2年前はコロナ禍の影響で中止になってしまって。外出自粛期間中、僕はリモート飲み会的な事をおそらく2回程度しかしていないんですけど、そのうちの1回は双真くんとyuya(Develop One’s Faculties)と僕の3人で・・・。
双真:10時間くらい飲みましたね(笑)。
ハロ:部屋のカーテンを閉め切っていて時間の感覚が無かったけれど、気付いたら昼前で(笑)。あの時、何の話をしましたっけ?
双真:ほとんど覚えていないんですよ(苦笑)。
ハロ:僕もです(苦笑)。
双真:確か、少しだけマイクの話をしたような・・・。
ハロ:しましたね!この対談シリーズの他の回でも話したんですけど、ボーカリストはそれぞれに声質が違うから楽器隊のように共通の機材も無いし、お酒の場での話題が少ない気がして。その時は楽しかったし、思う事もあったはずなんですけどね。あの時期、どんなサイクルの生活をしていましたか?
双真:寝て、起きて、曲を作って・・・外を出歩いてはいけなかったから、ほぼ家でできる事しかやっていなかったです。
ハロ:時間という概念の外側に居た気がするんですよね。予定が全て無くなってしまって、自分が何をしているのか、何者なのか、段々わからなくなってきて。
双真:確かに、時間から切り離されたような感覚でした。僕自身も含めて、あの時期のバンドマンはモチベーションの維持が大変だったと思います。
ハロ:本当に。色々なアーティストさんが定期的にツイキャスなどで配信をされていましたけど、僕には“ボーカリストがただ話すだけの配信は何か違うな。”という偏屈なこだわりがあったので、そういう事もしなかったですし。
双真:僕も1人ではあまり話せないタイプで、それこそお酒を飲んだりしないと難しいんです。でも、その状態で配信をするのは見せるべきではない部分まで見せる事になりそうで何か違うなと思う。向き不向きがあるんでしょうけど。
ハロ:最近は、デジタルタトゥーとして残ってしまうから余計に怖いですよね。かと言って、1人でゲーム実況を配信するのも僕は違う気がして。時代に迎合できない自分の脆さかもしれないけれど、そういう事を考えていたら何をすべきか見失ってしまった時期がありました。
双真:人間には目標が必要ですよね。バンドもひとつの目標だし、ライヴをする事で“もっと頑張ってやろう!”という気持ちになれるものですから。
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◆「歌詞」と「メンバー」と「自分の武器」のお話。
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ハロ:歌詞は全て双真くんが書いているんですか?
双真:99%が僕で、1曲だけドラムのS1TKが書いた歌詞を基にした『ゆらり』という曲があります。
ハロ:僕も同じで、99%は自分で3曲だけメンバーが書いた歌詞があって。メンバーが書くと、歌いまわしが変わるじゃないですか。歌詞を書く時、“この音には、この母音を乗せたい。”なんてこだわりがあったりしませんか?
双真:あります!
ハロ:声を張った時に気持ちが良い母音があって、曲の中のトップキーはその母音にしたいのに、メンバーはそういうところはわからないから書きたい事を書いてくる。手直しはさせてもらうものの、自分の中で噛み砕くのに結構時間が掛かったんです。双真くんは、そういう事は無かったですか?
双真:かなり話し合いましたね。どういう心情を描きたかったのか、どういう意味で遣った言葉なのかを理解した上で、自分の気持ちも入っていないと歌えないから、モチーフなどを少しずつ変化させていって。最初は深夜の高速道路をイメージした歌詞だったけれど、自分の中ではドライブがあまり連想できなかったので、「最終電車にしたらどうだろう?」と提案したり。
ハロ:ディスカッションの中で消化していったんですね。Ashmaze.のライヴは対バンの時などに何度か観させてもらっていますが、僕の中での双真くんは“常に葛藤している人”というイメージが強くて。歌詞にも、社会に対して思う事や風刺的な内容に触れているものがありますし。
双真:Ashmaze.自体が“苦悩”をコンセプトにしていて、このバンドが観てくれている人達にとって悩みから抜け出すきっかけであればという気持ちで活動しているんです。僕自身がわりと悩みやすい性格なので、ライフテーマでもありますね。そういう部分をしっかりと歌詞にも落とし込みたいと思っているから、ライヴにも葛藤が表れていたのかなと思います。
ハロ:ボーカリストの腹の底が言葉ではなくステージから伝わるのは絶対に必要な事で、それこそがボーカリストたる所以というか、歌っている意味だと思う。苦悩や葛藤を伝えられるのは生き様を表現できているからこそだし、誰にでもできる事ではないですから。
双真:ありがとうございます。
ハロ:ベルの場合は、基本的に1曲1曲の歌詞の中に主人公を据えて書くので、僕はその曲の世界観や主人公を表現するストーリーテラー的な感覚でステージに立っているんですよね。
双真:僕の歌詞は、主人公ともう1人の登場人物の2人で構成されている場合が多いです。
ハロ:主人公は、自己の投影ではなく?
双真:自己投影の場合も、知人などの場合もあります。身近なもの、自分が見てきたものが多いので、どちらかと言えばノンフィクションに近い事が多いかもしれません。
ハロ:『時代』の歌詞も?
双真:あれは僕の中学時代です。
ハロ:そうだったんですね。歌詞は家で書きますか?
双真:以前は家でしたけど、最近は外で書かないとダメだと思い始めて。ボイトレの先生が作詞コンテストに作品を出している方なので「どういう風に書いていますか?」と訊いてみたら、「なるべく家に居ないようにする。」と言われて。家の中に居ると見慣れたものしか目に入らないし、閉鎖的で刺激が少ないですよね。そういう環境だと得るものが少なくて想像力が働かないから、できるだけ外に出て普段と違う環境に身を置きながら書くと良いんじゃないかと。その話を聞いてから、僕も外で書く事が増えました。
ハロ:僕もベルになってからは外で書いていて、なるべく曲に合った場所に行くようにしています。
双真:あ、それは良いですね!
ハロ:例えば、『週末レイトショー』という曲では古びた映画館のような映像が浮かんだので、そういう場所を探して行ってみたり。本当に暗くて閉鎖的な曲の場合はあえて真っ暗にした部屋で書きますし、色んな人間や景色が必要な曲だと感じた場合は外に出ます。脳がどういう刺激を受けたかによって生まれてくる言葉が変わるから、場合によって変えていますね。作詞に時間が掛かるタイプですか?
双真:めちゃくちゃ掛かります。1曲に2~3週間掛かる場合もありますし。
ハロ:一緒です。かと思えば、1週間で書けたり、勢いに乗った瞬間にバーッと書けたりする事もあるけれど。3週間掛かった時でも、最初の1~2週間は書いては消してを繰り返して、何かひとつきっかけを掴んだ途端に一気に書き上がったりしませんか?
双真:ありますね!最初は適当に語感の良い言葉を置いて、そこからテーマに合った言葉を探してはめていくんですけど、納得できる比喩表現ができなかったり、“ダメだ、ダメだ”の繰り返しで(苦笑)。
ハロ:わかります。僕は、最長で1ヶ月近く書けなかった歌詞がありました。一度“書けない!”と思うスパイラルに入ってしまうと、どんな言葉を置いても良いと思えなくなる。こだわりを持って歌詞を書いている人は皆、言葉が音にはまっても自分が良いと思えなかったら採用できないんじゃないかな。
双真:そういう時には、他のバンドさんや今流行っている曲の歌詞を分析して現実逃避をするんですけど(笑)。“何て素敵な言い回しなんだ!”と嫉妬する事が多々あります。
ハロ:“何でこんな言葉が出てくるの?”と思いますよね。ちなみに、好きなアーティストは?
双真:BUMP OF CHIKENと、最近はVaundyさんも好きですね。言い回しも曲も、とても素敵です。あとKing Gnuの『カメレオン』の歌詞は、“これをギタリストが書いているんだよなぁ・・・。”と思いました。
ハロ:言葉も言い回しも楽曲もオシャレな、才能のギフトを幾つももらっているアーティストが沢山居ますよね。僕がここ10年くらいで最も音源を集めてライヴに足を運んだアーティストは、amazarashiです。人間の中のドロッとした部分や、生きている中での言葉にできない苦しさ・葛藤を音楽に昇華するスタイルに凄く憧れる。さっきも言ったように基本的にベルでは楽曲とバンドの世界観に従ってストーリーを構築しているので、その時の自分の心理状態とデモの楽曲のテンションが合わなかった場合、まずはそのチューニングから始めなくてはならないんですよね。それが一致している時は歌詞もスムーズに書けますけど、一致していない時は本当に時間が掛かるし苦しみます。だから、制作期間は好きだけど嫌いです。
双真:その言葉、とてもわかります。歌詞が完成して、歌って、しっかり感情を乗せてライヴで表現できた時は、本当に気持ちが良いんですけど。
ハロ:自分の歌詞に感動する事がありませんか?
双真:あります!
ハロ:あまり言うと安っぽくなるからインタビューなどでは極力言わないようにしていますけど、自分の歌詞に感動する事は結構あるんです。ライヴ中も、歌っていて自分の歌詞に引っ張られるし、グッとくる瞬間もある。
双真:良い歌詞が書けた時には自分を褒めてあげたくなるくらい、悩みに悩みますからね。
ハロ:生みの苦しみですよね。良い歌詞が書けた日は、“今日は美味しいご飯を食べよう!”と思います(笑)。
双真:歌詞って、形が決まっていない状態のパズルを自分で作っていくようなものだから。
ハロ:小説に近いかもしれない。言葉を遣って、歌詞の中での時間経過や天候、場面の変化をいかに連想させるか。スムーズに場面が繋がった時や冒頭のシーンを後半の歌詞で活かせた時は、“よし!”と思います(笑)。
双真:伏線回収、ありますね(笑)。映画とも似ている気がします。お客さんがハッとするようなどんでん返しを仕掛けて、驚いている様子を見ながら「これはドキッとしただろ!」と思うような。
ハロ:確かに。そこで出てくるのが、現代においては歌詞を読む方が少なくなったという事に対する葛藤なんですけど。僕自身は歌詞を読むのが好きなので、その感覚があまりわからないんです。中学時代はポエマーで自作の詩をノートに書いていましたし、元々“読む”事自体が好きなんですよね。でも、いざ自分が音に乗せて歌詞を書いてみたら、それまでに自由に書いていたポエムとは全く違って。
双真:言葉数やテーマなどに制約があるから。
ハロ:だから、歌詞の中に潜ませた仕掛けに気付いてもらえた時は凄く嬉しいんです。これは本当にボーカリストのエゴですけど、インストアで「歌詞を読んでくれた?」と訊いて「読んでいないです。」と言われると少しだけ傷ついている自分が居て(苦笑)。作品はリリースした時点で僕らの手を離れたわけで、その瞬間からどう育てていくかは聴き手次第ですから仕方がない事なんですけど。
双真:曲は子供みたいなものだと言いますし、「この子、可愛いでしょ!この子の服、見てくれた?」と訊いて「見ていないです。」と言われたら、やっぱりショックですよね(苦笑)。
ハロ:自分の言葉にはまだそこまでの力が無い、歌詞を読みたいと思わせられていないんだなと思う。
双真:そう考えると悔しいですね。
ハロ:うん、正直悔しいです。あとは、完成した歌詞を最初に目にする立場であるメンバーに褒められると嬉しいですね。ボーカリストに限らず、バンドマンには多かれ少なかれ承認欲求があるので。メンバーって、凄く特殊な立ち位置じゃないですか。友達でも家族でもない、でもビジネスパートナーと言い切れるほど仕事だけの関係性でもない。ただ、関係性の結合部分には間違いなく音楽がある。だからこそ、音楽的な部分で褒められるのは一番嬉しいですね。ライヴのセットリストを組んでいるのが自分なので、メンバーから「今日のライヴ、めちゃくちゃ気持ちが良かった!」という言葉が出た時も本当に嬉しい。
双真:そうですよね。うちも、なかなか癖の強いメンバーでやっているので(笑)。
ハロ:メンバーの癖は強いほうが良いと僕は思います。最近は、破天荒なバンドマンが減ったなと感じるんですよね。SNSの発達によって簡単に炎上してしまうから、誰もが慎重に言葉を選ぶようになった。昔はそういうツールが無かったから、発信する場所はライヴか雑誌の記事くらいで、あとは勝手に独り歩きしている伝説みたいなものがあったりもして(笑)。破天荒さがロックの根幹みたいなところもあったし、自分が憧れてきたのもそういう人達が居るヴィジュアルシーンだった。実際に入ってみたら意外と真面目な人が多くて、それはそれで良い部分もあるけれど、それだけではつまらないなと。ちょっと角のある発言をすると、周囲が怒るじゃないですか?ベル始動当初、僕もよくメンバーやファンに怒られていたんですけど(苦笑)。でも、発言にしろ歌詞にしろ、周囲の人の意見が入れば入るほど角が取れて丸くなって、自分ではない誰かが発信しても同じだろうなという内容になってしまう場合が多い。それを踏まえたうえで個性を見つけられた人が今の時代に合った勝者なんでしょうけど、自分が憧れてきたのは“棘のある発言をしても嫌な感じがしない人”や「“この人が言うならしょうがないよね。」と思わせるような空気のある人”で。それは今の時代でも作れるはずなのに、と悩みましたね。
双真:結局は、人間性ですからね。最近、“なりたいと感じるものになろうとしてはいけないんだな。”と思ったんです。
ハロ:結局は“なれない”ですよね。
双真:そう、自分自身で勝負するしかない。そういう意味では、自分はステージの上でもわりと素に近いんだと思います。ライヴ中も、こうして話している今も、ずっと“双真”であるべきで。そこがブレたらダメなんだろうなと思っています。
ハロ:そういう考えになったのは、Ashmaze.を始めてからですか?
双真:そうですね。前のバンドの時は、“作ろう”と思っていた部分もあったかもしれません。
ハロ:“憧れに追いつきたい”“なりたい自分を目指したい”という気持ちを持って始めるけれど、段々とそれは違うと知る時が来て。僕自身もそれに気付いて“自分らしくいこう”と思えてからはだいぶ肩の荷が下りたし、それまでは無理をしていたんだなと実感もしましたね。
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◆「スイッチが入るタイミング」と「MC」のお話。
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ハロ:ステージに上がるにあたってのスイッチが入るタイミングは?
双真:僕は、幕が上がった瞬間に入ります。
ハロ:ライヴ前はリラックスしています?
双真:いや。ライヴ前も、入り込むために1時間くらい誰とも話さない時間があります。1本1本のライヴにテーマを持って挑まないと、ステージで“何故、今ここに立っているんだ?”という気持ちになってしまうので。
ハロ:わかります。前段階で気持ちを作っておけないと、MCもただ中身の無い話をして終わったり。
双真:ありますね(苦笑)。
ハロ:誰もが通った道だと思います(苦笑)。中には話の組み立て方が本当に上手いボーカリストさんも居るし、それは本当に凄い才能ですよね。どちらかと言うと僕は前段階で“今日はこういう日だ。こういう事の為にここに来たんだ。”と考えてから臨む、双真くんと同じタイプなので。それ故に、MCが硬くなりがちなんです。自分は1時間前くらいから気持ちを作って昂った状態でステージに上がるけれど、会場は幕が開いた瞬間からのスタートだから、温度感が違うんですよね。ワンマンの場合は演奏曲数が多いしセットリストにも明確なストーリーを作りやすいですが、イベントとなると温度感を含めていかに会場の空気を読むかのスキルも試されるので、最初の頃はかなり苦しみました。当時は、事前にMCの内容を全て箇条書きにして準備していたんですよ。
双真:全く同じです。一言一句間違えないように喋ろうと頑張っていたんですけど、本当に薄っぺらいMCになるんですよね(苦笑)。
ハロ:会場の空気や温度感と合わないから。ボーカリストは話している時、お客さんに届いていないとわかるものじゃないですか。
双真:わかります。お客さんの顔が少しずつ左に傾いて、“あぁ、ダメなほうに傾いていく・・・”と焦ってくるんですよ(苦笑)。
ハロ:そうなるとどんどん焦ってしまって、“何か面白い事を言ったほうが良いかな?”とか余計な選択肢が浮かんでパニックになるので。最近はもうMCは準備せずにステージに上がって、その場の空気感で自由に話しています。結果的に内容が無かったらそれは仕方がないし、“ごめん、俺はMCをしにきたわけではなくて歌を聴かせにきたんだ。”と開き直っていますね(笑)。たぶん、双真くんは真面目だと思うんですよ。僕もこの対談企画の中で「真面目過ぎる。」とか「硬過ぎる。」と言われる事が多かったけれど、双真くんも同じで凄く準備をするタイプじゃないかと思う。
双真:そうですね。対バンのイベントの場合は、タイムテーブルが送られてきた段階で“自分達は何番目の出演で、ひとつ前のバンドさんはこういう音楽性だから、会場の空気感はおそらくこうであろう。”と想像して、どういう戦い方のセットリストにするかを考えます。
ハロ:セットリストは双真くんが決めますか?
双真:ほとんど僕です。
ハロ:僕も、全く同じ決め方をしますね。自分の出番が何番目か、前後のバンドさんはどんなライヴをするか、その時の会場の空気を想像しながら1曲ずつパズルのように組み立てていきます。“この曲の次にこれがきたら、こんなテンションになるだろう。”とか“逆に、ここで叩き落してやろうかな。”とか、色々な事を考える。ライヴの準備は、かなり前から始まっているんですよ。
双真:言い方が難しいですけど、誰よりも自分が感動できなくては意味が無いと思っていて。
ハロ:そう思います!
双真:評価をするのも、おそらく自分。勿論、お客さんの評価もありますけど、まずは自分が良いと思えなくては第三者から評価をされる段階にも達していないと思うので。ライヴに関しても、自分が“良い!”と感じたライヴは大体良いんです。
ハロ:ボーカリストが言う“良いライヴ”って、いかにバンドの世界観に入り込んで自分の役割を全うできたかだと思うんですね。楽曲に深く入り込めた時はゾーンに入るような感覚があって、そうなると歌っていて凄く気持ちが良いし、後々思い返すとその瞬間の事をあまり思い出せなかったりする。
双真:普通とは違う時間の流れを感じるんですよね。
ハロ:そうそう。“めちゃくちゃ良いライヴをしたな!”と感じる日もあれば“今日はちょっと自分の中のスイッチが入り切らなくて微妙だったな。”という日もあるけれど、不思議な事に後者の時に関係者の方からは「凄く良かったね!」と言われたりもして。この自己評価と他者評価の温度感の違いは何なんだろう、と。バンドとしてのライヴが微妙だったわけではなく、ボーカリストである自分としては微妙だったという話だからなのかなとも思うけれど。
双真:もしかしたら、僕はまだその段階まで到達できていないのかもしれないです。僕の中のスイッチは、ふたつくらいしかない気がします。“どれだけ集中しながら自由にできているか。”というスイッチと、“ライヴ中のこの瞬間に入れるぞ。”とある程度は決めておくスイッチ。そこでちゃんと入れられた時は、ドーパミンが大量に出ますね。全能感というとあれですけど・・・。
ハロ:いや、確かに全能感ですよね。無敵になる瞬間、みたいな。
双真:ボーカリストはライヴの流れに強弱をつけるような立ち位置だから、指揮者だと思うんです。その仕事を全うできている、空間の全てを操っているような瞬間がたまに訪れるんですよね。自分の中でも“あ、良いライヴができているな!”と感じる。
ハロ:その時の高揚感は凄まじいし、めちゃくちゃ幸せを感じます。音源が完成した時も凄く幸せで嬉しいけれど、それとはまた違う種類の幸福感。あれを知ってしまったから、ステージを降りられないだろうなと思う。一種の麻薬です。
双真:そういう意味では、ボーカリストやバンドマンは皆ジャンキーだと思う。
ハロ:スポットライト症候群なんて言葉があるくらいですからね。ボーカリストに限らず、一度引退してもまたステージに戻ってくる方が沢山居るけれど、その気持ちは凄くわかります。僕もきっと一生忘れられないと思う。だからこそ、体力の続く限り、そして求めてくれる人達が居る限り、できるだけ歌い続けたいですね。
双真:同じ気持ちです。
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◆「喉のケア」と「ボーカリストになった経緯」のお話。
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ハロ:ライヴ前の喉のケアや、日常生活で気を付けている事はありますか?
双真:舌の筋肉が硬いと発声と滑舌が悪くなるからなるべく舌をほぐして、リラックスした状態でステージに臨むようにしています。あとは、重心ですね。
ハロ:体幹は大事ですね。どこに体重が掛かっているかによって声が変わるので。僕自身もボイトレに通うようになってから学びましたが、喉が詰まったり籠ったりするのも姿勢が原因の場合が多い。
双真:姿勢が悪いと良い声が出ないです。
ハロ:そして、体幹がブレていると安定した声が出ない。
双真:人間は気負って力んでしまうと姿勢が前のめりになって、声が出づらくなる。なるべくリラックスした状態で歌う事が大切ですよね。
ハロ:今の時代は、歌が上手くなる為の情報が沢山あるから。10代で信じられないくらい歌が上手い人が居るのは、情報量の差によるところも大きいと思う。僕が10代の時は今ほど簡単に情報が手に入らなかったから、カラオケに行って“この曲は上手く歌えたな。”とか“この曲のキーは出ないな。”みたいな事くらいしかできなかったし。
双真:“何となく”でやっていた部分が多かったです。僕は、yuyaさん(Develop One’s Faculties)のスタジオでボーカルレコーディングをさせて頂いていて。
ハロ:僕もです。
双真:オーディオデータは嘘をつかないから、歌を録っている中で自分の成長に気付ける場面が結構あります。歌が上手い人ほど波形の振り幅に乱れが無いものだけど、僕は結構ガタガタになりがちだったんです。ボイトレの先生のオーディオデータを見せてもらったら、本当に凄く綺麗なんですよね。
ハロ:僕も同じで、キーが高いところや声を張るところではどうしても波形がパーンと上がるんですよ。本当に歌が上手い人は一定の範囲内の発声で抑揚を付けられるから、波形が乱れない。自分の実力を最も実感するのが波形ですね。
双真:yuyaさんの波形は本当に真っ直ぐで、波形を意識しながら歌う事を学べたのは大きかったです。
ハロ:確かに。自分が歌っている最中に波形が乱れると気付けるし、ライヴを観ていても“このボーカリストの波形は綺麗だな。”とわかるようになった。成長へと繋がる部分を学べた事に感謝です。双真くんは、何故ボーカリストになろうと思ったんですか?
双真:僕は不登校で、ある1曲に救われた事で“あの時と同じ感動を与えられるようなボーカリストになりたい。”と思いました。あの時の自分と同じような状況の人を支えられる存在になりたい。目的はしっかりと定まっているんです。
ハロ:僕も同じように曲に救われた経験があって、それがきっかけで“自分も人を励ませるような歌詞が書けるようになりたい。”と思ったんですよね。最初は、歌を歌いたいというよりも歌詞を書けるようになりたい気持ちが大きかったです。でも、気付いた事があって。“自分も誰かを救えたら。”と思って音楽を始めたけれど、結局は誰かを救う事で自分が救われたかったんじゃないか。誰かを救う事で、その時の自分を肯定しようとしているんじゃないか。最近、そういう感覚になっているんです。
双真:確かに、それはしっくりきますね・・・!
ハロ:何事も自己の肯定なんだろうなと思います。
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◆「厭世観」と「波乱万丈な過去」と「対談を読んでくれた人へ伝えたい事」のお話。
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ハロ:今回5人のボーカリストにそれぞれ違う価値観を提示しているんですが、双真くんとは“厭世観”について話したいと思っていて。“厭世観”は“悲観主義”という意味で、僕自身もポジティブなほうではないですし、双真くんとは通じ合える部分があるのではないかと(笑)。
双真:そうですね(笑)。ボーカリストって、どこか捻くれている人間が多いと思うんです。
ハロ:確かに。今飲んでいるコーヒーが“まだこんなにある!”と思うか“もうこれしかない!”と思うかで言ったら、僕は後者なんですよ。
双真:同じです。
ハロ:何に関しても、悲観から入る事が多い。双真くんのライヴでの姿や作品を通して感じるものがあったし、僕らはそれをエネルギーに変えて活動しているタイプだと思うんですね。さっきも話したけれど、自分の音楽で誰かを救いたかったのに救うべき人を救えていないのではないかと悩む事もあります。こうして今僕らが話している間にも、苦しんでいる人も居れば、戦っている国もある。それに対して僕個人にできる事はほとんど無いんだと無力感を覚えるし、全員を救う事は不可能という点に関してはどこかに矛盾的な諦めを抱いているのも事実です。僕自身も、「生きていて楽しいか?」と言われたらわからないですから。生きていて楽しいというよりも、楽しい事・・・僕にとってはライヴですが、その為に生きている感覚なんですよね。音楽が無かったら、何をしていたと思いますか?
双真:何だろう・・・建築家か、警察官かな。
ハロ:へぇ~!
双真:ちょっと尖った小学生だったので、当時のまま成長していたら歪んだ警察官になっていた可能性はあります(笑)。音楽との出会いが無かったらどうなっていたんだろう。色々な人と出会って、自分の中の価値観や人生観も変わりましたからね。僕の場合は、“何か良い事があるかもしれない。”と思いながら生きています。
ハロ:僕はずっと料理人が夢でした。小学生の頃、日曜日の朝に家族にスクランブルエッグを作った時、「凄く美味しい!」と食べてくれた事が子供心に物凄く嬉しくて。“自分が作った料理で喜んでくれる人が沢山居たら良いな。”と思ったんです。実際、バイトができる年齢になってからはずっと料理関係の仕事ばかりしていました。実家は自営業ですが、両親も「お前が子供の頃から料理人になりたい事は知っているから、継がずに自分の道を行って良い。」と言ってくれていて。ところが、僕が突然「音楽をやろうと思う。」と言い出したわけです(笑)。
双真:「どうした!?音楽はどこから出てきた!?」となりますよね(笑)。
ハロ:そうなると親としても話が変わってくるぞ、と。しかも、それを言った時は既に20歳を過ぎていて。音楽の世界は10代で土台を作って続けてきた人が多いし、「お前にそれは無理だ、応援できない。」となってしまった。でも、僕は性格的に“やりたい!”と思った欲求に抗えないんですね。今でこそ“先に歌詞を書かないと!”とか“今週末はライヴがあるし!”と考えられるようになりましたけど、当時は今よりも若かったからなおさら制御がきかなくて。しかも、“俺にはできる!”という根拠の無い自信があった(笑)。
双真:そういう妙な自信、わかります(笑)。
ハロ:「俺はできると思う!」と言ったら「そんな覚悟も無いだろ。」みたいな言葉を返されて、カチンときてしまって。「わかりました、俺は今日でこの家を出ます。」と言って、本当にその日のうちにキャリーとボストンバッグを抱えて家を出ました。「うちに来るか?」と言ってくれる地元の友達も居たけれど、そこで頼ったら意味が無いという妙な意地のスイッチも入ってしまって、段ボールで家を作って2ヶ月くらい公園で生活して。
双真:めちゃくちゃ波乱万丈じゃないですか!
ハロ:“覚悟を見せてやる!”みたいな意地があったんですよね。実家から通っていると嘘をついて賄が出るバイトを探して、まずはお金を貯めようと朝晩は食べずに賄だけ山のように食べる生活をして。2ヶ月くらいで家を借りられたんですけど、そこで“どうやって音楽を始めたらいいのかわからない。”と気付いた(苦笑)。コネも無ければ、知り合いも居ない。当時はスタジオなどでもメンバー募集があったけれど、いきなりバンドに入るのはハードルが高いなと思っていたら、知り合いの先輩がバンドを始めるから手伝ってくれる人を探していると耳にしてヴィジュアル系バンドのローディーから始めたんです。ローディーをしていると段々と知り合いが増えて、メンバーを集めて初めてライヴをして。そこからバンド活動を続けて、ベルの前のバンドの時にようやく家族をライヴに招待できるくらい関係が修復できたんですよね。双真くんは、家族に反対をされたりはしなかったですか?
双真:反対というか、僕は中学生くらいの時期が一番荒れていたんです。“人間社会に溶け込めない俺みたい奴は森で暮らせばいいんだ!”って、家出して森で自給自足の生活しようとしたり。さすがに食べるものが無さ過ぎて、3日で諦めましたけど(苦笑)。薬草の本なども持っていたので挑戦しようとしたものの、ジャンクフードの味も知ってしまっているような人間に食べられるものではなかったです。“俺には向いていないな、仙人にはなれないんだな。”と悟って、「ごめんなさい。」と家に帰って。
ハロ:双真くんも充分、波乱万丈ですよ。でも、そういう経験が今の感性に生きているから。
双真:『ウエズレーの国』という絵本の中に出てくる「いまにきっと、やくだつさ」という言葉が、一番好きな言葉なんです。失敗も含めて全ての経験が今の自分を創り出しているし、必ず糧になっている。その言葉は、未だに強く心に残っていますね。
ハロ:絵本も読むんですか?
双真:たまに読みます。わかりやすいし、凄く良い事が書いてあったりするんですよ。
ハロ:確かに、児童文学には大人が読んでも響く言葉が書いてあるし、生きるための道しるべになってくれますよね。僕は、歌が上手く歌えなくなった時期があって。ボイトレに通う前、力まずに歌う事ができていなかった期間が数年あったから、歌う為に必要の無い筋肉が発達してしまったんです。ボイトレの先生に、「まずはその要らない筋肉を痩せさせることから始めないといけない。」と言われて。表立った筋肉は目に見えるけれど、喉周りの内側の筋肉は目には見えないし、「痩せさせろ。」と言われても明日までに痩せるのは不可能じゃないですか。それは、私生活にも当てはまると思っていて。自分が積み重ねてきてしまった事への信頼は1日2日で取り戻せるものではないし、喉に限らず1日1日大切に生活する事が大切なんだとボイトレから学びました。双真くんが話してくれた絵本の言葉も同じで、ひとつひとつの積み重ねが自分の細胞になる。必要なものも要らないものも出てくるだろうけれど、その中で本当に必要なものをしっかり自分の中に残していければ、もう少し生きやすくなるのかなと思います。
双真:確かに。これからも、そういうものを見つけていきたいですね。
ハロ:社会に対する漠然とした不満や不安、悲観的な部分があるけれど、自分自身を嫌いになれないし、自分の人生を諦められないと思うんですよ。
双真:自分に対して、“ちょっと好きだな。”とは思っていますよね(笑)。
ハロ:そう思います(笑)。
双真:“お前、本当に嫌な奴だな!”と思う時もあるけれど、同時にほんの少しだけ“良い奴だな。”と思える瞬間がある。そこに気付けるかどうかで自分との向き合い方が変わってくるし、誰もがそれを見つける為に生きているんじゃないかと思います。
ハロ:人間はどうしても自分自身を卑下しがちな生きものだと思うので、もしこの対談に共感してくれる方が居たならば、どうか自分の良いところを見つけて肯定してあげて欲しいなと思います。本当にちょっとした事で良いんですよ。自己肯定や達成感は、生きる上での道しるべとなるものだから。
双真:欲を言えば、ご時世的になかなかライヴに足を運びづらい状況ではあるけれど、僕らのライヴに来て少しでもそういうものを感じ取ってもらえたらと思います。その為にライヴをしているようなものなので。
ハロ:その通りですね。
双真:バンドは、それくらいの存在で良いんですよ。「ちょっと辛かった時にライヴを観て元気が出た。」とか「頑張ってみようと思えた。」とか、そう感じてもらえる事が何よりの存在意義。
ハロ:我々の活動は、その積み重ねですから。
双真:そう思います。自分達の夢に近付けるように努力しながら、周囲を巻き込んでいく。
ハロ:5月1日のサクラ大戦第伍夜で僕らの楽曲を聴いて楽しんでもらうのは勿論のこと、この対談から少しでも何かを感じ取ってもらえたなら嬉しいです。
双真:そうですね。“救う”だと烏滸がましい感じがするから、自分的には“寄り添う”という感覚に近いんですが、なるべく寄り添ってあげたいという気持ちで歌っているので。
ハロ:音楽は娯楽だし、生きていく上で万人に無くてはならないものではない。だからこそ、さっき双真くんも言った通り「ライヴに来て!」と言いづらい現状ではあるし、少しでも早くまた誰もが気軽にライヴハウスへ遊びに来られる世の中になって欲しいと思っています。コロナ禍の中で活動を続けていると、心のどこかに「今はライヴに行きたくても行けない。」という人達に対する“置いていってごめんね。”という想いがあるんですよ。でも、バンドは進まないと死んでしまうから。
双真:バンドも生きものだから、ライヴをしなければ生きていけないです。
ハロ:だからこそ、僕らは1秒でも長く活動を続けられるように全力を尽くすので、またそれぞれの環境が許した時には会いに来て欲しいなと思います。サクラ大戦第伍夜、楽しい2MANにしましょう。そして、これからも仲良くしてください(笑)。
双真:こちらこそです(笑)。5月1日、楽しみにしています!
取材・文:富岡 美都(Squeeze Spirits/One’s COSMOS)
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初めまして限定2マン企画
「サクラ大戦-REVENGE-」
開 催 !
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「第壱夜」
4月2日(土) vs heidi. ★終了★
「第弐夜」
4月9日(土) vs GRIMOIRE ★終了★
「第参夜」
4月16日(土) vs Leetspeak monsters ★終了★
「第肆夜」
4月22日(金) vs ヤミテラ ★終了★
★次回★
「第伍夜」
5月1日(日) vs Ashmaze.
チケット発売:3月12日〜(e+ A1〜)
https://eplus.jp/sf/detail/3565090001-P0030001
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