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2022年07月12日 (火)


【ライヴレポート】<KiD ファーストワンマンツアー「だから空気を読んだ」>2022年7月7日(木)渋谷近未来会館◆「1人になったけど1人じゃなかったなって、このツアーを通して思った」

REPORT - 19:54:32

 R指定の凍結(活動休止)から2年。ギターの楓が満を持して始めたソロプロジェクト・KiDは、多くのファンの期待を受けて軽やかに活動を進めていくはずだった。ところが、世間がコロナ禍に入ったことにより、思ったようにライヴを展開することはできなかった。

 

ライヴ活動が再開されて1年、それだけに、ファーストワンマンツアー「だから空気を読んだ」を有観客で開催できると決まったときは、喜びもひとしおだったに違いない。全4本、ツアーファイナルまで勢いよく駆け抜けることとなる。

そして、ファイナルの会場に選んだのは、渋谷近未来会館。オープンしたばかりのライヴハウスだ。内装イメージが香港の廃墟というだけあって、入口からエキゾチックな雰囲気が漂う。

そんな中、ライヴが行われたのは77日ということもあり、会場内に七夕飾りが用意されていたのも趣がある。色とりどりの短冊にはファンからの願い事が書かれており、更に気分を盛り上げていく。あとはライヴが始まるのを待つだけだが、今一度、KiDについて説明したい。

まず、KiDは楓のソロプロジェクトではあるが、ライヴは音源とは違って、彼が単独でステージに立って歌うわけではなく、サポートメンバーを率いたバンド編成という形で展開されていく。

なお、このツアーで選ばれたサポートメンバーは、ボーカル・真宵(HOWL)、ギター・威吹(ダウト)、ベース・ハク(ユナイト)、ドラム・S1TKAshmaze.)の4人。

これまで共演してこなかったメンバーもいるだけに、楓が作る音楽を通して彼らとどのような化学反応を起こしてくれるのか、期待が高まる。

 

定刻から少し過ぎた頃、楓が先陣を切ってステージに現れた。黒い衣装と鎖骨下辺りまで伸びた赤いエクステが大人っぽさを引き立てており、これまでのヴィジュアルイメージを良い意味で変えていた。

そのまま中央に置かれたお立ち台へと勢い良く上がると、観客とアイコンタクトを取るような姿勢で周りをギラギラと見渡す。その後にメンバーが続き、「空気を読んだ」でライヴ本編はスタートした。

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真宵の「さぁ、踊ろうか渋谷!来いよ!」という煽り文句をきっかけに、楽器陣も勢いよく演奏を進めていく。

 

「楽観的ノイズ」では曲の冒頭から手拍子が起こるなど、ファーストワンマンツアーとは思えないほど、観客と呼吸が合っているところを見せてくれた。

本ツアーの開催にあたり、いくつか音源を出してはいるものの、楓以外のファンには曲の認知度はそれほど高くはなかったはずだ。

それでも、サポートメンバーがKiDの楽曲の世界観を理解し、自分の音へと消化させたことで会場内に良い空気を生み出してくれた。

その証拠に、真宵は自分のバンドの曲であるかのように慣れた雰囲気で楽曲を歌い上げていく。

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その横で威吹と楓が卓越した演奏力で引き立てると、ハクとS1TKは全身でリズムを刻みながら観客を魅了していく。「揺蕩う」の後には、本日最初のMCを。

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「本日はツアーファイナルにお越しいただき、ありがとうございます。短いツアーでしたが、一緒に廻ったメンバーを紹介させて下さい」という楓はいつになく楽しそうな顔をしている。他のメンバーも、その表情と言葉から本ツアーが如何に充実したものだったかが伺える。

和気あいあいとした雰囲気の中で演奏されたのは、「心美人」。曲の途中、楓はボーカルと見間違うほどのアグレッシブなリップシンクで曲を印象付けた。

激しいイントロから妖艶な展開を見せた「刻々」、ギターの対照的なアプローチがきらりと光った「ブラインド」、丁寧な言葉で紡がれた「ククル」、曲終わりに暖かな拍手に包まれた「フラフラ」など、すべての楽曲において異なる個性が表れていた。

何より驚かされたのは、これらすべての楽曲を楓一人が作詞・作曲を手掛けていること。

これまでバンドで表現してきた過激で独特な描写とは別に、彼が持つ世界観とポテンシャルの高さをまざまざと見せつけられた気がした。

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 2度目のMCでは、先程よりもリラックスしたのか、メンバーの素の感じが出ていた。とはいえ、終始かっこよくキメていたわけではない。楓はR指定の時と同じく、ここでもしっかりとメンバーからいじられており、話のオチでは観客の笑いを誘う。どうやら、己のキャラクターに関してはソロプロジェクトになっても変えようがないようで、見ているこちらとしては安心する部分でもあった。

また、楓は本ツアーがスタートする前、燃え尽き症候群になったら嫌だと言っていたそうだが、その心配を吹き飛ばすかのように、真宵が「燃え足りねぇよな。最後まで俺についてくれば大丈夫です!KiDしようぜ!」という言葉を受けて、闘志に火が点いたように見えた。ここからの快進撃は目を見張るものがあった。

「悲観的ノイズ」では楓がステージ前方まで迫り出してきて眼差しで観客を煽っていく。曲の中盤で自然と場内から拳があがったのは、メンバーの鬼気迫る演奏力あってのものだと思う。勢いは衰えることなく、「マンホール」でもメンバーそれぞれ積極的にステージを動き、後方の観客まで盛り上げていく姿勢に心を打たれた。

「ガラシャ」では、威吹の奏でる音色が曲を引き立てる。それを見た楓がすぐさま上手側へ移動した後には、お互いに背中合わせで演奏する場面も見られた。以前から友人関係でもある2人だが、そのキャラクターは似て非なるもの。しかし、こうして同じステージに立つと、お互いの志が似ているのが音を通して伝わってくる。

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そして、彼らに負けることのない個性で迫ってきたのが、残りの3人だ。KiDの楽曲はポップでキャッチーなものばかりではないだけに、ハクはユナイトとは違ったアプローチ法で観客を楽しませてくれた。真宵とS1TKにいたっては、物怖じしない姿勢で楽曲を引っ張っていってくれたのが見事だった。

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こうして作り上げられたKiDのライヴは、「ほぞを噛む」で本編を締めくくった。冒頭、時勢に逆らうかのような攻撃的な真宵の言葉が印象に残っている。ライヴ中に声を出すことすらNGとなってしまったこの風潮に対し、「ご時世とこの瞬間、どっちが大事なんだ。俺はこの瞬間だ!」と高らかに告げた彼の堂々たる姿は、とても清々しかった。

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 アンコールでは、オープニング同様、楓が先にステージに現れた。まずは、本ツアーに協力してくれたサポートメンバーに感謝を述べると共に、少しだけ過去を振り返る。

「R指定が凍結してから、どうしよう、音楽辞めようかなって悩んだけど、やっぱり音楽やりたいって思った時、自分が世に出してない曲を聴いてもらいたいなっていう思いがあって。とりあえず、ファンサービスじゃないけど、曲だけ出し続けようかなって思っているうちに、ライヴをしたいなっていう欲が出てきて……」つらつらと、自分の思いを話し始める楓。

「イレギュラーなスタンスで音楽活動を続けているから、俺が歌わないことはどうなのって未だに周りからは言われるけど、俺は俺で、俺のスタイルが合っていると思って信念持ってやっているから、そんなこと言うぐらいならお前ら自分のバンド頑張れやって思うし。

実際、ヴィジュアル系音楽ってしんどいし、辞めていく人も多いけど、そんな状況にも関わらずサポートしてくれるって本当にすごいことだなと思うし、それを観に来てくれるファンの方々、本当にありがとうございます。

ツアータイトルの「だから空気を読む」っていうのも、コロナとか、色々とこれは良いんじゃないか悪いんじゃないかっていう価値観が人それぞれあると思うんですよ。今まで以上に空気を読まないとワーワー言われる時代だから、そんな中で自分がどう選択をするかっていうのはバンドマンに限らず、みんなもそうで。

音楽関係なく生きていく上でそういう局面がいっぱいあると思うので、後悔のない選択をして下さいっていう。俺も後悔のない選択をしようと思ってKiD始めて2周年を迎えることができたので、やって良かったと思います。1人になったけど1人じゃなかったなって、このツアーを通してめっちゃ思いました。ほんと、ありがとうしか出ないけど……、ちょっと泣きそうになってきちゃったから待って。

とりあえず、音楽を続けさせてくれてありがとう!」

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音源をリリースし、ツアーをする、その繰り返しがミュージシャンにとって当たり前であり、幸せなことだった。しかし、そんな状況はコロナ禍で一変。当たり前なんてどこにも存在しない。だからこそ、自分が好きでやってきた音楽を続けられる環境に今も置かれているのはとても幸せなことだというのを実感したと言う。

また、自分が愛するミュージシャンがステージに立つ姿を見られるのがこれほど嬉しいことだというのをファンは痛いぐらいに分かっている。これまでR指定のギタリストとして大きなステージをいくつも経験していた彼だからこそ、音楽を続けさせてくれてありがとうという、ミュージシャンにとって原点回帰ともとれる言葉に、ここにいた誰もが涙を滲ませながら聞いていた。

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アンコールでは、本編でも披露した楽曲を再度演奏したのだが、本編とは違って聴こえたから面白い。大ラスを飾った「空気を読んだ」では、それぞれの音色を通して、KiDの未来への決意を感じられた。

なお、本日サポートを努めたメンバーは、このファイナルで一旦完結ということになる。次にKiDがステージに立つ際はまた違ったメンバーを引き連れて現れるそうだが、今までにない試みなだけに、こちらも非常に楽しみだ。

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自らのギタリスト人生を豊かにさせるため、そして、ヴィジュアルシーンに生気を宿らせるため、楓の挑戦はまだまだ続いていく。

 

 

Report:水谷エリ

Photo:ゆうと。

 

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<ライブ情報>

 

2022816()池袋EDGE

202293(土)秩父ミューズパーク「バグサミ2022」

 

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