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2022年10月08日 (土)


【ライヴレポート】<Chanty 9th Anniversary Oneman「Chantyの世界へようこそ」>2022年9月16日 Spotify O-WEST◆「当たり前にそばに居られるバンドになりたい。」1人でも多くの人のもとにChantyの音楽を届けるため、そしてChantyを愛してくれる人達を1人残らず迎えに行くため、彼らは進んで行く──。

REPORT - 21:06:55

見上げると、どこまでも澄み渡る青空。

快晴と呼ぶにふさわしい天気に恵まれた2022916日、Chanty9周年を迎えた。

9年という月日が長かったのか短かったのかは彼ら自身にしかわからないけれど、それだけの時間をひとつの目標に向かって全力で走り続けることがどれだけ難しいかは想像に難くないだろう。

 

ここ数年の周年公演はコロナ禍の影響により無観客配信での開催を余儀なくされたり、バンドの体制が変化して間もなくであったり、何かとイレギュラーな状況が続いていたが(どのような状況であれ、バンドはその時点でのベストなパフォーマンスを展開してくれたことは言うまでもない)、幾多の困難に屈せず何度でも立ち上がり辿り着いた今日という日を空も祝福しているようだった。

 

ピアノの音色が印象的なオープニングSEと共に、パープルとホワイトを基調にした美しい新衣装を身に纏った3人が姿を現す。

 

WEST、いけるかー!さぁ、確かめ合いましょう。」ギターを抱えた芥が気合い漲る第一声を響かせ、9周年は『透明人間』でスタートを切った。Chantyのアグレッシブでエモーショナルな魅力を詰め込んだライヴ曲で周年特有の緊張感が漂う場内の空気を一気にぶち破り、続く『ミスアンバランス』でもまだまだとばかりに「硬くないですか?もっと見せてください!」と煽ると、間髪入れずになだれ込んだ『不機嫌』では早くもフロアがヘドバンで埋め尽くされる。その様子を見た野中がモニターに座り込み挑発するような視線を送れば、白もステージ際まで歩み出て激しくギターを奏で、オープニングの3曲で場内のボルテージを急上昇させてみせた。

 

「聞こえていますか?見えていますか?俺達はここに居るぞ!おまえたちはそこに居てくれ!さぁ、一緒に作りましょう。Chantyの世界へようこそ!」

 

O-WESTに集まった人達、配信で見守っている人達。Chantyを愛してくれる全ての人達と大切な1日を作り上げるため、11人の存在を確認するように語り出す。

 

Chantyの世界へようこそ。よくぞ集まっていらっしゃいました、ありがとう。この数年で稀に見る晴れではありませんか。今の季節の代名詞みたいな雨や台風を吹き飛ばすくらいの天気で今日を迎えられたことを感謝しております、ありがとう。」

 

それぞれの場所から足を運んでくれるファンを想い天候を心配していたメンバー達、カーテンを開けて清々しい青空を目にした時どれだけ安堵したことだろう。

 

「あっという間の9年だったけれど、ずっとこの場所に居たいという気持ちだけで歩いていたなら、ここまでこられなかったと思うんです。今この瞬間に命を懸けて、この場所を作っている。それを証明しに参りましたので、今日は今日にしかない時間を作ってまた未来に繋げていけたらと思います。どうぞよろしくお願いします。」と、歩んできた月日の重みと誇りを言葉にして届けた。

 

逆光の中、ドラム台に集まった3人とサポートドラムの多村直紀(Yeti)が呼吸をひとつにして始まった『ファントムミュージック』を経て、メンバー全員の煽りが映えた『ダイアリー』へ。誕生した当初は絶望に満ちた表現で届けられていたが、活動の過程で幾度となく意味合いやアレンジの変化を繰り返し、バンドと共に成長してきた印象が特に強い曲だ。

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ラストのサビの終わり、「消えたい今日も消えたい無かった事に・・・させるわけねえ!」と歌詞を変えて歌われたのを耳にした時、どんな壁にぶつかっても前進を続ける今のChantyの強さを感じて嬉しくなった。

 

葛藤を絞り出すように叫んだ芥がマイクスタンドを掴み膝をついて歌い出した『逆上のパルス』から、ライヴは中盤のクライマックスへと動き始める。焦燥感と疾走感を帯びた演奏と歌声はどんどん熱を増し、真っ赤に染まった世界はやがて真っ暗な闇に覆い尽くされた。

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そこに響き始めた、心音。一筋の光が差し込んだ先、鼓動の中でうずくまった芥が感情を露にして『謳う心臓』をアカペラで歌い出すと、会場ごと大きな水槽の中に沈められたかのような感覚を覚えた。緊迫した重厚なサウンドが言いようのない不安を掻き立て、五感の全てを支配されていく。気付けば、オーディエンスである私達も水底に囚われ、身動きが取れなくなっていた。心と思考の奥深くに潜り込んで観る者を没入させていく圧倒的なライヴ展開は、Chantyの真骨頂と言えるだろう。

 

monorium』で白のギターの音色が世界を蒼く塗り替えていく中、芥が震えながら掲げたその手は、濁った水槽の水底から光を求めるようにも、水面から差し込んできた光を遮るようにも映った。

 

「ねえ、僕の謳う心臓。凍てつく太陽に焼かれて歩き疲れたら、今日はもうおやすみ。」

 

おまじないのように囁かれた言葉、深い眠りへと誘う音の波が押し寄せ会場を包み込む。せめて眠りの中では痛みや苦しみから解放されますように。祈りにも似た願いはやがて、夜明けに向かって『-yureru-』の世界を駆け抜けていく。

 

「思考停止した僕達の目に映った、『群青』。」

 

目覚めた視界に映る青空、動き出した時計の針。思考が止まったままではその美しさに心を震わすことすらできないと気付き、たとえ太陽に焼かれても、あの空を目指して飛び立とうと滑走路を加速した彼に待ち受けている未来は———“わかるわけないでしょ。バカじゃない?飛び立つその瞬間、ふと笑ってそう言った少年Aの姿が瞼の裏に映った気がした。

 

圧巻のストーリーを描いたセクションは最新のキラーチューンでエンディングを迎え、芥が「以上、少年A”でした!」と締め括ると、割れんばかりの拍手が湧き起こった。

 

暫しのインターバルをおき、MCのバトンはChantyの太陽的存在である野中へ。

 

WEST、本当に楽しいです。ありがとうございます!でも、想い出に残る楽しいはまた違うと思っているから、この場所にしっかり残していこう。WEST、遊ぼうぜ!」その言葉を受けた芥が「野中による野中のための曲!」と『インピーダンス』へと繋ぎ、野中のスラップベースと白のギターソロが共に炸裂すれば場内の一体感は更に増してライヴは再び加速していく。

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白の鋭いカッティングを合図に会場が大きく揺れた『冤罪ブルース』から怒涛の勢いで『衝動的少女』に突入すると、ハードなサウンドに乗せて「おまえたちが欲しい!」と欲望のままに叫ぶ芥に無数の拳が振り上げられる。

 

「ほしいほしい、きみがほしい・・・ほしい。ほしい。君が。ほしい。」真っ赤な照明に照らされ膝を抱えて座り込み、うわごとのように繰り返す。次第に訪れた闇に柔らかなギターの音色が重なり、ピンスポットに照らされた芥がぽつりぽつりと呟いた。

 

「何で好きってさ、一方通行みたいになるんだろうね。どんなに想い合っていても、一方通行みたいだなと思うことがあって。好きって本当に怖くて、良い所を見せたくなっちゃうじゃないですか?好きな人に見せる良い所は本心、好きな人に見せる悪い自分は本性なんじゃないかなと思ったりします。これから歌う曲、僕達の本性をちょっとだけ見せるね。受け取ってください、『おねがいごと』。」

 

君に一つだけお願いがある おかしなことを言うけど聞いてね 笑っていてほしいけどできればほんのちょっと不幸せでいて

 

本当に大切に思っているからこそ抱いてしまう愛情の深さ故の嫉妬心を包み隠さずストレートにメロディーに乗せた『おねがいごと』は、芥でなければ書くことができなかった歌詞とChantyでなければ表現できなかった音楽だ。

 

同時に、そこで歌われているのは“Chantyがファンに対して抱いている想いというだけではなく、誰もの心の内に少なからず存在している感情なのだと芥が語った本心本性の定義を通して気付かされた。自分の中にある密やかな想いを自覚して受け止めた『おねがいごと』は一層、胸の奥に響いて聴こえた。

 

「こんな僕らをいつも照らしてくれてありがとう。ラスト、『白光』。」

 

Chantyにとっての光はファン、ファンにとっての光はChanty。互いに大きく光を放ち照らし合うこともあれば、一方に影が差した時にもう一方が照らし出すこともある。全身全霊を込めて演奏するメンバーとそれに応えるオーディエンスの姿を見ながら、素敵な関係性で支え合ってきたことを改めて強く感じた。

 

巡り巡って描いた今日が誰かにそっと届きますように。ここまでの歩みを刻み付け、10周年に向けてまた新たな一歩を踏み出せるように。いつも以上にエモーショナルな歌声と演奏で願いと決意を確認し合うと、感慨深げな表情で深々と一礼した3人はステージを降りた。

 

会場に鳴り響く拍手は、アンコールを求める手拍子へと変化していく。

 

ほどなくしてステージに登場したのは、渋谷の街並みを描いた可愛らしいデザインの周年Tシャツに着替えた白と野中。ふたりによる物販紹介のコーナーを挟み、芥も加えて9周年について暫しのフリートーク。

 

習い事を9年続けたら全国大会に行けるのではないかという話の流れから、“Chantyが全国大会を目指すとしたら何の種目か?を考え始めたメンバー達。芥が「コミュニケーション。」と答えを出せば、「予選敗退ですね、それは・・・()。」と白が即答。「何年やっても予選敗退でしょ・・・()。」と野中が追い打ちをかけ、テンポの良いやり取りで笑いを誘うと場内はアットホームな空気に包まれた。

 

「今日からChanty10周年イヤーに突入します!これもひとえに皆様のおかげです、ありがとうございます!集まってくれたおまえたちにも、配信を観てお留守番してくれている人達にも、もっと届けられるようなバンドになりたいと思っていますので今後ともよろしくお願いします!」

 

改めて宣言しお礼を伝えると、穏やかな口調ながら真剣な瞳の芥がひとつの重大な決意を話し始めた。

 

Chanty3人体制になってから、今日サポートしてくれているなっちさんはじめ色々な人が僕らに力を貸してくれて。そういう環境の中で、今日この日に辿り着くのに僕らは本当に挑めていたのか?と頭の中にしこりになって残っているところがあります。元々は5人体制で始まって、4人体制になって、今の3人体制になって。たぶん、頭のどこかには言い訳があったし、今はベストな状態でないのではとか今の状態で夢が見られるのかとか、特にここ半年間は凄く考えたりもしました。もしかしたら、そういう姿が皆に伝わってしまっていた時もあるかもしれません。考えに考え抜いて、僕らChantyは来年9月、O-WESTでの周年公演を一旦お休みして、自身最大のキャパを目指して活動していきます。さっきも言ったけれど、続けようという気持ちだけで続けていたらたぶんこれから先も続けられないと思うから、もっと上を見て、改めて気を引き締めて歩いていきますので、今後ともChantyをどうぞよろしくお願いします。」胸の内を言葉にして頭を下げる彼らを、あたたかい拍手が包み込んだ。

 

「ずっと夢を見続けていたいから、この曲を届けたいと思います。『スライドショー』。」

 

以前のインタビューで芥は「自分の中の不安を純度100%で表現した歌詞。常に何かが終わる事に対する不安を抱いているし、ファンの人達がどう感じてどう見てくれているのかもわからないし、去る時に『さようなら』なんて言ってもらえないから。」と話していた。

 

繋いでいるのは言葉という不確かなものでしかなくて、目に見える確信があるわけではないからこそ感じてしまう不安。それは、きっとバンドとファンがお互いに対する愛情と共に常に抱いている感情なのだと思う。先程のMCを経て届けられた今日の演奏からはステージ上のメンバー達の想いがひしひしと伝わり、3人による決意表明のようにも感じられた。

 

じっくりと聴き入っていたフロアに再度燃料を投下するべく始まった『無限ループ』で視界一面にタオルが回ると、緩急をつけたギターを響かせ魅了した白も縦横無尽のステージングでフロアを巻き込んでいく野中も楽しくてたまらない!という表情を見せ、バンドとオーディエンスが触発し合って最高潮へと達していく。

 

『パッチワーク』のリズミカル且つテクニカルなサウンドに合わせてジャンプし揺れたフロアを愛しげに見まわした芥の「僕達が生きていられるのは、あなた達がいるからだと思っています。」という言葉と共に届けられた『フライト』。

 

いつも悲しみだらけのこの街で 答えをくれたのはあなたでした 生きる意味さえなくしかけた時 ずっとそばにいてくれたから。集まった11人と目を合わせるようにして歌う芥も、歌詞を口ずさみながら演奏する白と野中も、今この瞬間を噛みしめるように幸せそうな表情を浮かべている。

 

「次が最後の曲になります。今日しかないを一緒に作ってくれてありがとう。これからも、僕らにしかない色を作っていきましょう。」

 

温かくて優しい時間の中、ラストに選ばれたのは『パレット』だった。

 

Chanty白色のイメージを強く持っている人は、今でも多いのではないだろうか。よく白は何にでも染まる色、黒は何にも染まらない色なんて言葉を耳にするけれど、私はどんな色とも混ざり合って新たな色を生み出せる白、そして黒にだってなれる白は、あらゆる要素を取り込んで進化できる柔軟性と強さを持った色だと思っている。

 

9年間、Chantyは変わらぬ自身のを基にたくさんの色を生み出してきたし、これからもまだ見ぬ色で描き続けてくれることだろう。

 

「どうもありがとうございました、Chantyでした!」演奏を終えたメンバーが一列に並ぶと、芥が口を開く。

 

「さっきのMC、来年の9月に関してまだ会場とかも未確定な状態で話してしまったけれど、そういう気持ちで進んで行くと見せておきたかった。信じてついてきてください、よろしくお願いします。」丁寧に付け加えられた言葉に再度大きな拍手が送られる。

 

フロアを見渡し「帰りたくなくなってしまうね。」と笑い合うと、「でも、10年が向こうで待っているから歩いて行かなきゃ。改めて、今日はありがとうございました。また必ず会いましょう。」と前を向き、最後は10周年を掴み取るべく「Chanty、めざせ10周年!」と全員でジャンプをして締め括り、9周年は笑顔で幕を下ろした。

 

「当たり前にそばに居られるバンドになりたい。」

 

常々メンバー達が口にしている言葉通り、1人でも多くの人のもとにChantyの音楽を届けるため、そしてChantyを愛してくれる人達を1人残らず迎えに行くため、彼らは進んで行く。

 

実験的要素を含んだイノベーション風ワンマン公演シリーズ騒々しい想像や、ベルとDevelop One’s Facultiesという同じシーンで切磋琢磨する盟友達との3MANツアー二進化十進法など、この先のスケジュールも盛り沢山だ。

 

どうか、大きな挑戦へと向けて走り出したChantyから目を離さないで欲しい。

 

 

そして、20239月。

10周年を迎えたその時、Chantyはどんな色彩で世界を彩っているだろうか。

 

メンバーが去った場内に流れる『シロクロのメロディー』とダブルアンコールを求めるオーディエンスの鳴り止まない拍手を聞きながら、彼らの未来に期待を募らせずにはいられない夜だった。

 

 

文:富岡 美都(Squeeze Spirits