2023年12月26日 (火)
【ライブレポート】<己龍生誕十六周年記念公演「拾陸周年」>2023年12月18日(月)Zepp Haneda:5人で成し遂げた生誕十六周年記念公演。──「我々は、一生涯、己龍ですから」
REPORT - 18:32:18己龍
黒崎眞弥 / 酒井参輝 / 九条武政 / 一色日和 / 遠海准司
己龍の生誕十六周年記念公演「拾陸周年」。12月18日、Zepp Hanedaにて行われた本公演のステージには、確かに“5人”の姿があった。
この日をもって“無期限活動休止”することが発表されたのが、今年7月のこと。これまで何があろうとも歩みを止めることがなかった彼らにとって、これは非常に大きな決断だったことが伺える。バンドにとって大きな節目を迎えるにあたり、もう一つ奇跡的なことが実現した。それが、表舞台での活動を休止していた九条武政と、療養期間に入っていた黒崎眞弥がステージへ立つ決断をしたことで、再び“5人”がステージへと揃うことだった。
満員御礼となった16回目の“周年”を祝う場には、メンバー、ファン、そして己龍に関わるすべての者が抱くそれぞれの想いが集結。そんな激情に溢れたライブの模様をお伝えする。
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SEに乗せて1人ずつメンバーを迎える場内は、興奮の歓声と感無量な拍手とで溢れかえった。そして、幕開けを飾ったのが「暁歌水月」というのもまた、アツい。かつて九条武政を送り出した際に5人揃って最後に演奏したのも、黒崎眞弥が療養に入る前の公演で最後に演奏されたのも、この曲だった。まるで“あの日の続き”を思わせるオープニングの早々、黒崎眞弥はこう告げた。
「今宵こそまさに、俺たち5人が示す答えそのものだ」
高揚感にブレることなく各々のポジションにドンと構えて演奏する姿にこみ上げるものがあったが、その後“我らに続け”という号令から続いた「百鬼夜行」、メンバーが一斉に飛び上がる「天照」へとノンストップに駆け抜ければ、感傷に浸る隙など与えてはくれない。ライブの運びもさることながら、目の前に5人の姿が在ることの一瞬一瞬が懐かしくもあり特別なものであるはずなのにその様子は不思議なくらい“自然”で、脳内に刻み込まれている記憶と目の前で起こる情景とがリンクして起こる、パズルのピースがハマっていくような感覚がむしろ楽しくて仕方がなかったのだ。
「ただ一つ、揺るぎない確かなモノはここにあります。我々は、一生涯、己龍ですから。ゆえにこの5人が根底ではしっかりと繋がりあっているということです。16周年、祝言の想いを今ここに。荒ぶるブスども、出てこいや!」(黒崎眞弥)
表舞台での活動にその姿が無くとも、ずっと1つのバンドの中で5人が共存し続けていたからこそ、今日という日が実現したのだということも改めて思い知らされる。それが、この日ならではのリアルタイムな表現が詰め込まれていた中盤のセクションでも感じられた。「䁶」に続いた「蠱毒」「是空是色」は、音源では九条武政の音を聴くことができるものの、初めて全員の生演奏によって聴くことができた。間には、酒井参輝のもとに駆け寄った九条武政が肩を組んで2人が笑顔を浮かべながら演奏する場面もあった「朔宵」や、雅やかに扇子が揺れた「悦ト鬱」を挟み、「明鏡止水」「雪、黒業ニツキ」では雪景色を彷彿とさせて、存分に冬の季節感を味合わせる。一変、「花魁譚」や「朱花艶閃」では、九条武政のリードギターがリアルな音としてスピーカーを通して聴こえてくる歓喜も乗じて、見る見るうちに会場のボルテージが上がっていった。
ラストスパートを前に、黒崎眞弥はバンドとしての大きな転換期である日にファンへの感謝を伝えるも、〈ブスはブス!〉と眞弥節でファンを鼓舞。こうして「九尾」から即座に混沌へと導くと、ドラムに向き合い息を合わせて突入した「情ノ華」。そして、「愛怨忌焔」「鬼祭」へと一心不乱に轟音を畳みかけていき、己龍の歴史をさらうベストセレクションともいえるラインナップで魅せた本編ラストに用意されていたのは「アナザーサイド」だった。彼らの原点でありながら、各ソロ回しでメンバーの個性すらも見せつけるこの曲。“痛絶ノスタルジック”というコンセプトのもとにゼロから築き上げてきた独自のスタイルを崩すことなく、常に楽曲やライブでは生きる上での不条理や醜さにも屈強な意思を貫き、時には希望すら見せてくれた。これは過去形で語り継ぐものではなく、これからも己龍らしい在り方で生きていくことを示すような、どこか晴れ晴れしい幕締めだった。
実際に、アンコールに応えて登場したメンバーの口からはポジティブな言葉を聞くことができた。酒井参輝は〈諦めなければ夢は叶う〉と、その夢の1つとして今回5人でライブができたことを挙げ、次の夢は〈20周年にデカいことをすること〉だと伝えた。一色日和はかつて口にした〈(ファンとメンバーが)お互いじいちゃん、ばあちゃんになってもライブをやりたい〉という気持ちは変わっておらず、〈一生バンドをやりたい〉と話した。九条武政は〈久しぶりだけど久しぶりな感じがしない、“ホーム感”〉と嬉しそうに話しつつ、場を和ませる相変わらずのお調子者ぶりを発揮。遠海准司は、〈次のライブが決まってないだけなんです!〉と、ポジティブな思考で無期限活動休止を表した。そして黒崎眞弥からは「ただいま」というシンプルな一言だけであったが、彼の精神状態を顧みるとステージへ立つことを決断した心の内は計り知れない。本編中、時折しゃがみこみながらも止まらず全曲を歌い切ったことを思えば、その一言と歌声を聴けただけでも十分だった。
アンコールでは全5曲を披露。「空蝉」や、銀テープが舞った「叫声」といったエモーショナルな楽曲を大切に届け、最後に置き土産のように粛々と演奏された「螢」。
「またいつか、会う日まで」
演奏が終わるのを待たずして、去り際に黒崎眞弥はこう言い残した。
これが終わりではないから、このレポートも悲しい形で締めくくるつもりはない。己龍のメンバーは、絆というよりももっと強靭なもので繋がれているように思う。それは関係の深さだけではなく、自分自身はもちろん、メンバー同士にも時には厳しさをもって切磋琢磨しながら叩き上げて来たともいえる強さがあるからこそだ。再び彼らに会える日は確約されてはいない。それでも本公演を終えた今、残っているものはなぜか寂しさではない。“此の命が尽き果てるまで夢を…さぁ、唄いましょう”と、酒井参輝が共に背負っていこうと話したこの「暁歌水月」の一節の通り、夢を見る命はまだ続いているのだから。
レポート・文◎平井綾子
写真◎Tanabe Keiko
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<セットリスト>
1.暁歌水月
2.百鬼夜行
3.天照
4. 䁶
5.蠱毒
6.是空是色
7.朔宵
8.悦ト鬱
9.明鏡止水
10.雪、黒業ニツキ
11.花魁譚
12.朱花艶閃
13.九尾
14.情ノ華
15.愛怨忌焔
16.鬼祭
17.アナザーサイド
‐再演‐
1.紫触
2.無垢
3.空蝉
4.叫声
5.螢
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