2023年08月13日 (日)
【ライヴレポート】<Ashmaze. ONEMAN TOUR 2023「Unity」 TOUR FINAL>2023年8月4日(金)恵比寿LIQUIDROOM◆自身最大キャパシティとなったツアー最終公演。 ──「人間は強いってことを証明しよう」。
REPORT - 20:00:262023年8月4日、Ashmaze.が恵比寿リキッドルームにてワンマンライヴを行った。
Ashmaze.は2019年結成。ここ数年に渡るコロナ禍に直撃し、無慈悲に淘汰されていった音楽シーンの中を、華のある5人編成と高い演奏力を武器に戦い抜いてきた叩きあげのバンドだ。
<UNITY>と題された合計8本の全国ワンマンツアーの最終公演にして、彼らにとって自身最大キャパシティとなったライヴの模様を本レポートではお伝えする。
平日にも関わらず多くの観客が詰めかけたリキッドルーム。
現在のヴィジュアルロックシーンにおけるAshmaze.への期待値とこのライヴへの注目度が伺える。
定刻と同時に暗転し、幕が左右に開くとそこにはすでに5人の姿が。
序曲に据えられたのは「ニルヴァーナ」。今年6月にリリースされた1stフルアルバム『NIRVANA.』の表題曲でもある新たな名刺代わり的ナンバーだ。リズムインと共にフロアはヘドバンの嵐で開幕早々に風速を上げていく。
「ニルヴァーナ」(OFFICIAL MUSIC VIDEO)
口ずさみたくなるサビとその裏で蠢くЯyu(Ba)のフレージングに初っ端から“らしさ”を感じ思わずニヤリとさせられる。
続いたお馴染みの「サイレン」でも歓声は音量を増し、ツアーでの成熟を覗わせた「ハナトナレバ」は詩結(Gt)の琴線に触れるフレーズ、諒(Gt)とのツインギターソロがこれでもかと波状攻撃で畳みかけてくる。
Ashmaze.は緻密な楽曲とそれを再現する高い演奏力を武器とするバンドだが、特筆すべきは5人のメンバーがそれぞれに音数で主張しつつも、押し引きの妙が実に巧みで輪郭にブレが生じないところである。
S1TK(Dr)のドラミングが自在に幻惑する「グロリア」然り、音の波に漂う双真(Vo)の歌声がその独特の声質も相まって力強さと同時に無二のドライな感触を放ち続ける。
中盤に差し掛かる頃に披露された「Hurt me」においてもこの無二の魅力を存分に体現。
「Hurt me」もまた『NIRVANA.』収録の楽曲であるが、エキゾチックなリフがリキッドルームを巨大な密林のように妖しげに彩る。艶めかしい双真の歌唱は<ねぇ愛をもっと頂戴>と浮遊するように確かな“個”を主張する。楽器隊もそれぞれの音・フレーズで上塗りするように色味を増していき、技量はもちろんのことそれに留まらないAshmaze.の新機軸を見事に表現した。ステージを照らす明かりも淫靡な虹色に染まり空気をガラリと一変させた。
▲双真(Vo)
中盤では「ゆらり」、「Q」と美しいメロディのバラードナンバーが続けて披露された。序盤から続いたオーディエンスの激しい盛り上がりの余熱をも溶かすような淡々としたプレイがむしろ微熱のように甘く狂おしい。<あなただけズルいよ>と繰り返す双真の歌声はまるで耳元で囁くように悲しく響き、リキッドルームに静寂が充満した。
激しい音楽であることは大前提であるが、Ashmaze.の真骨頂ここにありのこのミドルブロックは大きなハイライトとなった。
▲諒(Gt)
▲詩結(Gt)
諒と詩結がセンターに揃ってギターソロを披露した「渇き」でもハードな側面と同時にバンドのテーマとなっている“苦悩に寄り添う”を体現するかの如く深層へと堕ちていく。
<UNITY>とは<団結>でありメンバー同士もファン同士も高め合えたツアーになったのではないかと双真が語ったところで披露されたのは「三日月がただ遠い」。
アルバム『NIRVANA.』のクロージングソングである。荒廃した心象を鎮めるように祈りを捧げるこの曲。結成して間もなく世界的パンデミックの影響で在るべきバンド活動、ひいては本来熱狂の渦中であるべきライヴと隔離された世界を生き抜いてきたバンド故の苦悩もあるだろう。この日終始、双真は“声を聴かせろ!”、“観客が声を出せるようになったライブハウスで~”と言った趣旨の発言をした。所謂“声出しルール”が概ね撤廃されて幾ばくかの時間が経過しているが、Ashmaze.にとってこの世界は取り戻したものではなく、ようやく手に入れたものであることを再認識させられる印象的なシーンだった。
“苦悩に寄り添う”ことをテーマにしているバンドにとってオーディエンスに“いかに寄り添うか”もまた“苦悩”だったのではないか…優しくも儚い曲のアウトロに飲まれるようにそんなことを思った。
2020年にリリースされた「GENOM」の焦操感が戦闘態勢の終盤戦への突入を告げると、続いたのは「ラベンダー」。一聴するとキャッチ―だが、タクトを振るうようなS1TKのドラムを中心に独特の超変態的なグルーヴが生まれ、技術の確かなAshmaze.の新しい顔を覗かせる。
激しく求めあうオーディエンスに向けてここで投下されたのは「拝啓、嫌いなお前へ」。“待ってました!”のガソリンは加熱済のフロアを見事に完全着火し、この日最大の極悪な高揚を生み出す。ここまで比較的冷静にプレイをしていたフロントメンバーも肉声で叫び扇動する。
▲Яyu(Ba)
▲S1TK(Dr)
2019年リリースの『錯覚』より「カゲロウの錯覚」、ハードネスの中にグルーヴィーな心地よさも内包する必殺曲「INSIDE MY HEAD」と歴戦のナンバーを経て「Humming」ではタオルを回して楽しむ聴衆にメンバーも思わず笑顔で応えた。「Humming」は誤解を恐れず言えば“異色”かつ“ポップ”であり、これまでのバンド像には存在しなかった1曲である。
“苦悩に寄り添う”ことを大義としたバンドが規模を拡大していくうえで自分たちの音楽に触れる人間に対して“寄り添う”以上の一歩を踏み出しているような印象を受ける。
<世界を変えたいだとか 大それたことは言わない>と歌いつつ、今目の前にいる一人一人の世界を確かに明るく変えようとするこの曲。時系列は定かではないが、言い換えるならば「Humming」こそが<UNITY>と題されたツアータイトルの意味を成しているのかも知れない。
双真も語ったように<UNITY>には団結や結束という意味があるが、<苦悩に寄り添うこと>も団結であり、<変えた後の世界>を共に歩むこともまた結束ではないだろうか。
以前、双真はメイクを施し衣装を着る…自分が創り出した世界観の中で自分の本質を表現に昇華できると語っていたが、等身大の言葉を丁寧に紡ぐフロントマンを擁するこのバンドだからこそ、ここから数年、十年、二十年先の歩みを「Humming」が答え合わせしてくれる、そんな気がしている。
“まだまだ上に行きたい”と決意表明したうえで“人間の強さを証明しよう!”となだれ込んだラストナンバーは「INNOCENCE」。断末魔のような音の洪水が残響し完全燃焼で本編終了。
アンコールを求める声が上がるとほどなくしてステージサイドのモニターに告知映像が流れる。白と赤をあしらった<New Visual>が映し出されると悲鳴に似た嬌声があがり、さらに全国ツアーの情報も解禁された。
1箇所ずつ明かされていくが…日程の多さ(全17公演!!)に次第に喜びでどよめく会場。そして…ツアーファイナルは2024年1月22日 Spotify O-EAST!!!
この発表にはこの日一番の大歓声が沸き上がった。
アンコールに登場したメンバーは早速新衣装を纏い、披露されたのは未発表の新曲「カルマ」。
諒、詩結、Яyu、S1TKの音がぶつかり合い、セツナ系のキャッチ―なメロディが耳に残るのはまさしくAshmaze.の王道であるが、その隙間を双真の歌声と泣きのギターが双璧を成すようにつんざく展開をしていく様にハイブリッドさを感じる…はっきり言ってバンドのニューウェポン誕生を予感させる強烈な1曲だ。
この日初めて全メンバーがマイクを取ったMCでS1TKは「7年前にサポートで立った会場にワンマンで帰ってこれて良かった。」とこの日への想いを語り、Яyuは「“UNITY”はライヴでこそ生まれるべきだ」と躍動するベースラインで抜群の個性をいかんなく発揮し続けた彼らしい考えを述べた。
詩結は「このツアーでメンバー同士ぶつかることもあったけど、ここまで歩んできた道のりが正しかったことを次のツアーで証明したい」とファンの目を焼き付けるように語りかけ、一方で諒は茶目っ気たっぷりに「(次のツアーが)O-WESTから始まってO-EASTで終わるの…かっこよくない?」とキッズに戻ったかのように嬉しそうに満面の笑顔を見せた。
ヴォーカルの双真は満足気な様子を見せずに「自分たちに限界を感じていない」と言い放った。
過去との邂逅、現在の想い、未来への先駆けと語る内容がそれぞれなのも五角形の個性が際立ったこのバンドらしい実に良いシーンだった。
“これが本当のラストだ!”
最後に披露されたのは「ラベル」。
“これから先も君の側にいさせてください!”
全8公演のツアー、自身最大キャパシティ、フルアルバムリリース…そして更なる全国ツアー、O-EASTワンマン決定と目まぐるしく躍進するAshmaze.
根幹にある音楽への探求心と、ヴィジュアル系ロックへの愛情。
会場の規模を着実にステップアップし、New Visualで新たな世界の扉を拓く…かつて当たり前に存在していた様式美を踏襲しながらにして、自身の音楽にストイックに向き合う職人気質なバンド。いつしか失われていたのかも知れないDNAの血脈を感じさせられる彼らにとってここからの歩みもまた“取り戻す”ものではなく“新しく描く”世界なのだろう。
淘汰された世界に立ち続けるこの5人の次なる「通過点」を目撃せずにはいられない。
文:山内秀一
写真:Lestat C&M Project
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<セットリスト>
01.ニルヴァーナ
02.サイレン
03.ハナトナレバ
04.Phantom Shell
05.グロリア
06.羨望
07.Hurt me
08.ゆらり
09.Q
10.渇き
11.三日月がただ遠い
12.GENOM
13.ラベンダー
14.拝啓、嫌いなお前へ
15.カゲロウの錯覚
16.INSIDE MY HEAD
17.Humming
18.INNOCENCE
EN1.カルマ(新曲)
EN2.ラベル
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<Ashmaze. OFFICIAL HP>