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2018年06月03日 (日)


【ライヴレポート】<THE BEETHOVEN 5th Anniversary ONEMAN TOUR 2018 「Masquerade」
「Classical×Masquerade」 2018年5月31日(木) TSUTAYA O-WEST>「5年間の感謝を込めて―――」

REPORT - 00:00:51

 その始まりはとても厳かだった。

 

 それは、ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第14番 『月光』第1楽章をSEとする、THE BEETHOVENというバンド名に相応しい幕開け。1801年に作曲されたというこの曲は、ベートーヴェンの耳が聞こえなくなり始めた頃の作品だとされている。この曲が、美しいながらも切なさと悲しさを含むのは、薄れていく音への深い想いが切々と描かれている心情を現しているかのように思えてならない。そして、この曲をSEとして用いる彼らTHE BEETHOVENという存在が放つ音もまた、特殊なバンド形態を持つからこそ生まれる刹那的な衝動である様な気がしてならない。

 ステージを覆う黒い幕がゆっくりと左右に開くと、そこには、混沌とした世界観を描き出す「哀-Ai-」を奏でるマコト(Vo)、福助。(G)、ミネムラアキノリ(G)、那オキ(B)、YURAサマ(Dr)の姿があった。オーディエンスは歓声を上げる間も与えられず、目の前に広がるTHE BEETHOVENの世界に引き込まれていった。静かに佇み、その音を受け入れていたオーディエンス。それは、無理に盛り上げていこうという焦りのない、実にコンセプチュアルでマイペースな幕開けだった。

 福助。作曲・マコト作詞による「哀-Ai-」は、5月16日にリリースされたニューシングル「Masquerade」の1曲目を飾っていた楽曲でもあり、ステージには、ジャケットとして用いられていたこの作品を象徴する【喜怒哀楽の仮面】が2つ掲げられていたのだが、哀しみを宿したシックな幕開けは、このシーンに確立した個性を刻み込んだ5人だからこそ成るライヴの形を見せつけられた瞬間であった。説得力のある福助。の泣きのギターソロには、“さすが”の年輪を感じさせられた。「哀-Ai-」は、“今まで自分がやってきていない音楽が、ここで出来ていることがすごく楽しい”と語っていた福助。のTHE BEETHOVENへの想いを強く感じた1曲だ。2曲目はシングルの流れをそのままに、ミネムラ作曲・マコト作詞による「Face of Masquerade」が届けられたのだが、いなたいメロを持つスピード感ある歌モノであるこの曲は、これまでのシックな流れを断ち切った勢いでライヴを牽引し、続く「L・S・L・G」では、ユニゾンのギターブレーズと4つ打ちのドラムフレーズとループするベースフレーズがフロアのオーディエンスの体を揺らした。

 

「こんばんは。THE BEETHOVENです! 5月16日から始まったワンマンツアー『Masquerade』、本日無事にファイナルを迎えることができました。ありがとう! 今回5周年ということで5本のツアーをやってきましたが、今日、本日、5月31日、ちょうど5年前、この場所、この時間に始動を開始したということで、丸5年になります! これもみなさんのおかげだと思っています! ありがとうございます」

 

 マコトは、この日最初のMCで、今回のツアーの意味と、そこに込められていた想いを語った。

 そう。2018年5月31日。『Classical×Masquerade』というタイトルを掲げ、O-WESTのステージに立ったTHE BEETHOVEN はこの日、5周年の記念日を迎えたのだ。

 思い起こせば、まったく個性の違う癖の強いバンドを本拠地とするメンバーが、THE BEETHOVENというバンドに席を置き、新たに息を吹き込み、初めてステージに立った5年前のこの日も、ゆっくりと黒幕が開き、彼らが登場した。あれから5年とは、ありきたりな言葉だが、時の経つのは本当にはやいものだ。

 同じヴィジュアルシーンに身を起きながらも、まったく別の思考を持ったバンドを本体に持つマコトと福助。と那オキとYURAサマが、本体とはまったく違う衣裳に身を包み、それぞれのルーツを活かした楽曲をTHE BEETHOVENの音として生み出して届けていたのが、とても新鮮だった初ライヴ。3年前に加入したミネムラは、まだ5年前の始動時には在籍していなかったのだが、またギタリストとしても、アーティストとしても格別に個性の強い存在であるミネムラが加わったことで、THE BEETHOVENは、よりその振り幅を広げたと言っても過言では無いだろう。楽曲の振り幅が広がったというのはもちろんのこと、この日も、ギタリストでありながらも、もはやパフォーマーと言うべきではないか? というほど躍りまくる華やかなステージングでライヴを盛り上げていた。

 中盤で届けられたYURAサマ作曲・マコト作詞の「背徳のサロメ」では、那オキがアップライトに持ち替えパイスピードに攻め立てた。この曲では、タイトなリズムを刻むYURAサマの安定したドラムスキルが一際引き立っていたように感じ取れた。そんな最新曲であるこの楽曲から、一番初期曲であり、『トルコ行進曲』が曲中に差し込まれ世界を一変させるトリッキーさと猟奇的な匂いを感じさせる「激パレ」が並んだ破壊的な流れはライヴの勢いを加速させた見せ場でもあったと言えるだろう。しかし。その直後、彼らはその破壊的な流れを大きく変えたのだ。

 

「5年間の感謝をこの曲に込めて―――」

 

 というマコトの一言を導入とし、オーディエンスに届けた曲は「エリーゼ」だった。包み込むようなサウンド感と歌詞に込めた想いを優しく歌い上げていくマコトのボーカル。そんな5人の音と言葉に、オーディエンスは動きを止め耳を傾けた。愛の詰まったメッセージは、優しい旋律と共に、まっすぐオーディエンスの心に響いていたようだった。

 本編ラストに置かれていたのは那オキ作曲・マコト作詞の「HEAVEN」。歌い出しのマコトのファルセットが印象的な、まさにHEAVENな景色が広がる鮮やかな1曲だ。

 【喜怒哀楽の仮面】をコンセプトに、メンバー全員の楽曲を収録した5周年の記念企画作品だったニューシングル「Masquerade」(5月16日にリリース)を引っ提げてのツアーでもあった今回のライヴの形は、さらにTHE BEETHOVENというバンドの在り方を色濃く示すきっかけになったように思う。

 ツアー自体が1年ぶりだったというマイペースなTHE BEETHOVENだが、だからこその色と、だからこその爆発力を生むのだと感じさせてくれる“ここにしかない音”は、純粋に音楽を楽しめる時間である様に思えた。

 アンコールで届けられた初期曲「Neverland」は、当初彼らにとっては、このTHE BEETHOVENがあったからこそ聴けた新たな扉を開いた1曲であったと記憶しているが、この日は、シングルにも2018年Ver.として収録された“現在のTHE BEETHOVENの音”として息を吹き返した形で届けられたのだった。
 テンポを落とし、音数を減らし、女性コーラスとの絡みを美しく魅せるこの曲は、彼らが歩みを重ねるごとに、この先も進化し続けていくことになるのだろう。

 

 この先も、毎年5月31日に、このバンドで1つずつ歳を重ねたことを、彼らとオーディエンスが始まりの場所に集まり、共に祝っていけることを切に願う。

文◎武市尚子

 

★THE BEETHOVEN★

http://thebeethoven.net/