8月12日、恵比寿リキッドルームで「VISUNAVI presents Visual Rock is not “DEAD”002」が開催された。
このイベントは2023年から始動。4月30日に池袋EDGEで行われたびじゅなび主催シリーズの第2弾である。
会場のキャパシティを大幅に拡大した今回出演したのはNoGoD、Cazqui’s Brutal Orchestra、Rides In ReVellion、鐘ト銃声、そして5年ぶりの復活となったHAPPY FARMの全5組。
このレポートでは、多種多様なヴィジュアル系のエクストリームなエッセンスを抽出し、尚且つ世代を超える布陣となった夏の一夜の模様をお届けする。
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Cazqui’s Brutal Orchestra
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トップバッターを飾ったのはCazqui’s Brutal Orchestra。
卓越した技術と煌びやかさを兼ね備えたギタリストCazquiによるプロジェクトである。この日Cazquiと共にステージに上がったのは架神(Vo/DEXCORE)、弓代星空(VIn/AURORIZE)、Boogie(Ba/JILUKA)、Zyean(Dr/JILUKA)。
▲Cazqui(Gt)
鐘の音が緊張感を生む荘厳なSEを合図に幕が開くと、そこには眩い紫色の光に照らされた、横一列の5人のバックショットが。ヴィジュアル系の様式美を感じさせる全身を黒で統一した出で立ちに期待が高まったところで叩きつけられたのは名刺代わり的な「THE BUTTON EYES」。
▲架神(Vo)
▲弓代星空(VIn)
タイトかつラウドな楽器隊のプレイに流麗な弓代のヴァイオリンが自在に浮遊する、まさにCazqui’s Brutal Orchestraの世界感を体現する名曲だ。続いて披露された新曲においてもCazquiのギターソロと弓代のヴァイオリンが抜群の距離感で躍動。メンバーは激しいアクションで縦ノリのフロアをさらに挑発する。重戦車のようなヘヴィネスを有しながら疾走するBoogieとZyeanのリズム隊の扇動力然り、架神の獰猛なデスヴォイスと美しいクリアの対比然り、一筋縄ではいかないステージに観客の集中力も高まっていく。
▲Boogie(Ba)
▲Zyean(Dr)
お馴染みのモノローグ的なナレーションによる“本日のオーケストラクルーの紹介”を挟み早くも後半に突入。3月に超満員の新宿BLAZEで開催されたワンマンライヴの表題であった「幻紫蝶-ヴァイオリア-」では一層ラウドなサウンドとキャッチ―なメロディーの対比が冴える。
実はこの日ヴォーカルの架神は台湾でのライヴから帰国して間髪おかずのステージであったものの、そんなコンディションをものともせず“バカでけえ声を聴かせてくれ!”と力強くアジテート。ラストの「THE FANATIC DANCERS」まで休む暇を与えず駆け抜けた。
イベントの頭から拳を振るハードな展開が続き、まさに蝶のよう舞いに縦横無尽にステージを謳歌するカリスマ=Cazquiが生み出すCBOワールドにリキッドルームが染まった。
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鐘ト銃声
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演説放送を思わせる転換BGMが会場雰囲気をガラッと変えたところで登場したのは鐘ト銃声。
白塗りを施し、黒い学ランを纏った4人が登壇し、 “恵比寿声を聴かせろ!” と狂ヰ散流(Vo)がお立ち台に登りライヴがスタート。
JFNラジオ「#V系って知ってる?~出張編3~」でも語られていた、鐘ト銃声の詩世界の主人公的存在“小林アキヒト”を歌った「東京都無職小林アキヒト(28)」からスタート。“シコる…シコる…”と繰り返し股間をまさぐるパフォーマンスは圧巻で、熱狂しヘドバンに興じる者、呆気に取られ傍観する者にフロアが分断される。
▲狂ヰ散流(Vo)
そのスタイルは2曲目の「性傷年4月の憂鬱」でも顕著で、ギタリスト然とした百合子(Gt)にこやかな詠真(Dr)とその世界観とのギャップが掴みどころを容易に見せない独特の魅力を放っている。
▲百合子(Gt)
▲潤-URU-(Ba)
▲詠真(Dr)
潤-URU-(Ba)の妖しげなベースラインを導入にした「午前0時の匿名希望」では“恵比寿のみなさん!大大大大大大先輩方に囲まれてますけど、いつも通りコンプライアンス違反でいきます!”と宣言。散流の壮絶なシャウトをきっかけになだれ込んだ「旭町2丁目市営公営団地B棟 寺林ヨシキ(10)」からラスト超大暴れナンバーの「S.V.R.S.E.X」まで終始攻撃的なセットリストで過激なステージを魅せた。エログロな世界観とどこか懐かしげなメロディライン、激しいリフが00年代のV系バンドを想起させる鐘ト銃声。彼らにとってリキッドルームに立つのはこの日が初めてのことであったが、決して観客に寄せようとすることや奇をてらうことををせず、あくまで自分たちの表現に注力するストロングスタイルは、その音楽性以上に懐かしさと頼もしさを感じた者も決して少なくないのではないか。
“まだ我慢汁しか出てねえよ!もっとイカせてくれよ!”と煽ったかと思えば“初めての恵比寿リキッドルームありがとうございました。”と去っていた嵐のような30分だった。
正直なところフロアの分断は最後まで埋まるどころか、“過熱”と“傍観”の溝は深まる一方だった。だが、ステージ終了後、傍観していたはずの客席後方から“すごかった…”と好意的な声が多く聞こえたことは記しておきたい。末恐ろしいバンドである。
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Rides In ReVellion
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三番手は先日自身最大キャパシティとなる大阪ゴリラホールワンマンを大成功させたばかりのRides In ReVellionだ。
圧倒的な演奏・歌唱力と抜群のメロディを武器とする彼らのファーストチョイスは泣きのギターと開けるサビメロが強力な「F.A.T.E.」。も、いきなりサプライズでCazqui’s Brutal Orchestraの一員として出演した弓代星空(VIn)が登場。なんとゴリラホールワンマンで起きたコラボレーションがここでも実現。
TaJI(Gt)と椿(Gt)のツインギターに加え弓代のヴァイオリンが加わったアンサンブルは至高で観客も手を挙げ応える。新体制のシンボルでもある「モアザンワーズ」では渚(Ba)のスラップが炸裂。志雄(Dr)の圧倒的に手数の多いフレーズとの関わり合いは絶品で、まさに音で楽しむと書いて“音楽”を体現して見せるRides In ReVellion。
▲Taji(Gt)
▲椿(Gt)
▲渚(Ba)
▲志雄(Dr)
フロントメンバーがせり出してくる画力がバンド自体の華を魅せた「死にたい夜を越えて」、そして9月12日リリースの最新曲「夜明け最前線」は優しいアルペジオから一気に開けていく展開が9年目を迎えるバンドの新たな旅路を思わせる新境地である。
▲黎(Vo)
テクニカルな側面がフォーカスされがちだが、そこに傾倒せず抜群のバランスを誇り死角がなく、プレイを楽しんでいる様は時間を増すごとに客席にも伝わり盛り上がりを増していく。万人が一聴して受け入れやすいメロディをRides In ReVellion節とするならその代表曲と言っても過言ではない、ラストに披露されたのは「カレタソレイユ」。
別れを連想させる切なく珠玉のメロディが光るナンバー。持ち時間寸分の狂いもなく圧倒的な歌唱力で場内を支配した黎(Vo)の感情過多な歌声に呼応するように一音一音に魂を込めてプレイするバンドに大きな拍手が送られた。
言葉ではなく音で語る彼らだが、最後に黎が「こんなイベントがある限りヴィジュアル系は死なない」と発言すると拍手は一層大きなものに変わった。
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NoGoD
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イベントも終盤に差し掛かってきたところでさらに高揚感が上がってきたところで四番手で登場したのはお待ちかねのNoGoD。
幕が開くとそこにはすでに定位置についたメンバーの姿が。お馴染みのリフが鳴ると一気に歓声が上がる。一曲目からいきなりメタルを基調としたNoGoDの代名詞的な一曲、「神風」を叩きつける。一気に拳があがりリキッドルームを我が物にしてみせる。
▲団長(Vo)
団長(Vo)は“いいバンドが続いたからここからは昭和のノリだ!”の言葉通り巧みにフロアを操り最新アルバム『NoW TESTAMENT』から「What do you say」を披露。退路を断つ歌詞とIyoda Kohei(Gt)の稲妻のような速弾きがリンクし焦操感とダイナミズムを生む。
「こんな時代に生まれて 後悔の無い 笑って逝ける道を行け」
パンデミックにさらされたこの数年、諦めずにヴィジュアルロックを志してきた“後輩”たちへのエールとも受け取れる…この日にいたってはまさに“Visual Rock is not DEAD”な1曲と言えるかも知れない。
“我々はヴィジュアル系の隅の方”
“ここからはおじさんの時間です””
などMCで観客を沸かすことも忘れない。
事実、バックステージで「何でもあり。かっこよければなんでもありなのがヴィジュアル系ですよね」と語っており、ここまで登場したいずれのバンドとも異なる個性を魅力として体現して見せた。
トークで温まったオーディエンスの盛り上がりは続いた「カクセイ」でさらに最高潮に。Iyoda Kohei、Shinno(Gt)、hibiki(Ba)、K(Dr)がそれぞれソロを披露する黄金の展開がNoGoDらしく、音でも視覚でも楽しませる。
▲Iyoda Kohei(Gt)
▲Shinno(Gt)
▲hibiki(Ba)
▲K(Dr)
ヘドバンの嵐の余韻に投下された燃料「桃源郷へようこそ」では観客の横モッシュや前後モッシュが実に壮観で、バンドだけでなく、観客の楽しみ方にも様々なギミックがあるのがヴィジュアル系の良き文化だと再確認させられるシーンだった。
“最後にヴィジュアル系を愛するみんなの声を聴かせて下さい”
あっという間に駆け抜けたラストは「Never fade away」。鼓動を打ち鳴らすように力強くもファストなビートにオーディエンスのシンガロングが共鳴する。
“日本が誇る最高のエンターテインメントを愛して下さい!”と言い残してNoGoDは笑顔でステージを去った。
団長のユニークにショウアップされたキャラクターと超技巧派5人組というギャップもこのバンド魅力だが、よくよく考えてみると先の言葉の通り、自分たちのスタイルを貫きながら音を鳴らし続けている姿はある種、無二の様式美であり、“ヴィジュアル系”そのものである。
横の繋がりに甘んじず、縦の世代間交流と相互作用がシーンに新たな景色を生むのではないか?そんなことを考えれば考えるほどこの日ステージで見せたNoGoDの存在の偉大さに気が付く。
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HAPPY FARM
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イベントのトリを務めたのは、5年ぶりの復活となるHAPPY FARM。
HAPPY FARMはYUKKE(MUCC)が中心となり結成されたバンド。メンバーはmaya(LM.C)、悠介(lynch.)、冬真(ex.CLØWD)、YUKKE(MUCC)、莎奈(ユナイト)という豪華な5人。自身の所属バンドやレジェンドバンド、J-POPの名曲カヴァーをレパートリーとしている。
今回復活の報への反響は大きく、この夜は多くの家畜(HAPPY FARMファンの呼称)が集結した。Visualの祭典に相応しい極悪メタルテイストの「タッチ」英語Ver.(YUKKEがこの日のために特別verを製作)のSEが鳴ると、大きな歓声が上がった。
HAPPY FARMでは全メンバーが動物の耳をつけた可愛らしい出で立ちだが、プレイは熱量高く、楽器隊がジャンプし、リズムインするシルエットが映えた「感情のピクセル(岡崎体育カヴァー)」からオーディエンスは高く拳を掲げて久々の“放牧”に応える。
またこの日新発売された“光る草”なる草型ライトでフロアはさながら牧草のように緑色に煌めく光景も新しい。
続いたのは「ヴァンパイア(Janne Da Arcカヴァー)」!頭・拳・草が入り乱れるカオスな盛り上がりも、落ちサビでは本家よろしくオーディエンスを激しく抱きしめるくだりが。ここではなんとYUKKE(Ba)がステージを降り、いざオーディエンスを抱き…の間一髪のタイミングで大柄な男性スタッフ(MUCCマネージャー氏)が袖から飛んできて剝がされる。
▲剥がされるYUKKE
さらにアウトロのキメに至っては莎奈(Dr)のフェイントでYUKKEのベースだけが虚しく響く“らしい”憎い演出に観客も爆笑で拍手喝采。
MCではmaya(Vo)が「ステージドリンク、牛乳だけど…大丈夫?この時期結構暑いけど…これ飲めるの?」と冷静につっこんだかと思えば、「まあいいや。曲やりましょう。あの、寄せ集めのバンドです。」とフランクな空気で和ませる。
空気を締めるべく、YUKKEがMUCCでは滅多に見せることのない煽りを披露。
始まったのは「SHUTTER SPEEDSのテーマ(GLAYカヴァー)」。本家のJIROパートをYUKKEが歌い出すというこれもまたMUCCでは見られない貴重なシーン。も、急に演奏がストップするという“いやがらせ”(なんと2回も繰り返された)。落ち込むYUKKEと楽しげなメンバーの姿にフロアの草ライトも大いに揺れて光ってみせた。
気を取り直して披露し直すとmayaが”もう1曲!”と呟き「彼女の”Modern…”(GLAYカヴァー)」へ。悠介と激しいアクションで魅了する冬真(Gt)が向かい合ってプレイする貴重なシーンも見れた。
▲maya(Vo)
▲悠介(Gt)
▲冬真(Gt)
▲莎奈(Dr)
イントロで察した観客から悲鳴にも似た歓声が上がったのはこれまでのレパートリーにはなかった「Queen(ROUAGEカヴァー)」。まさかの選曲とmayaのヴォーカルとの抜群のマッチにこの日初めて会場に静寂が訪れた。90年代後半~00年代前半の楽曲が並ぶセットリストに懐かしさを感じる層と、初めて触れる層が混在している様子がまさにV系世代間のミックスな印象深い場面だった。
再びのMCでは“#ゆっけ許さない”の話題に。しばしばX(旧Twitter)で目にするこのハッシュタグ、ことの発端は以前のライヴで悠介にYUKKEが“チュッ”としたことがきっかけだそう。“あのハッシュタグ最初に作ったのlynch.のファンだからね!”と熱弁するYUKKEには客席からも“許さない!”と罵声が飛んだ。
一方の悠介は“あんなに(HAPPY FARM)をやろうやろうって俺たちは熱望してたけどね“と発言。
自由過ぎる空気を見かねたmayaが「何か言っておくことないの?」と助け船を出すとYUKKEは“今日8月12日は……SATOちの誕生日です!!おめでとう!”と祝福。
本人不在の場ではあったものの会場全体から割れんばかりの拍手が起こった。
▲YUKKE(Ba)
ここで披露されたのはSATOちが作曲クレジットにも名を連ねる「謡声(MUCCカヴァー)」。
MUCCの楽曲ということもあってモッシュが起きるなどこの日一番の盛り上がりを見せた。
INORANリスペクトを存分に溢れる悠介のプレイが冴えた「TONIGHT(LUNA SEA)」を挟んでラストは” Are you fuckin Ready!?…ならぬ俺たちは…Are you happy Ready!?だ”とmayaが叫んだ「READY STEADY GO(L’Arc〜en〜Cielカヴァー)」!!
CO2を客席に吹きかけるmayaに応えるようにHAPPYな空気で大団円。
かに見えたが、ほどなくしてかかるアンコールに再登場。
予定外のアンコールには会場に残っていた団長(NoGoD)、黎(Rides In ReVelliom)、狂ヰ散流(鐘ト銃声)も共に登場。
客席からのリクエストに応える形で今宵限りの4人ヴォーカル体制で「ヴァンパイア(Janne Da Arcカヴァー)」を再披露。
最後にYUKKEが“これからもヴィジュアル系の深い歴史を掘り下げていきます!”と挨拶をし、4時間を超えるイベントは無事幕を下ろした。
世代間の垣根を超えることをテーマに開催された本イベント。
結果、出演アーティストの強烈な個性、会場に集まったオーディエンスの熱量で、新たなる潮流の兆しが生まれたように思える。
日本が世界に誇る最高のエンターテインメントを再び取り戻す…のではなく、紡いで、新たな歴史を生み出すことにこそ本質がある、そう感じる夜だった。
会場を後にするとやたらと蒸し暑い。接近している嵐の影響のようだ。
こんな日は酒でも飲んで早く帰るに限る。
いや、たまには牛乳も悪くないかも知れない。
文:山内秀一
写真:A.kawasaki
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そして、びじゅなびでは主催ライヴを11月23日(木・祝)にも開催することが決定した。
「VISUNAVI presents Visual Rock is not “DEAD”003」と銘打たれた公演は群雄割拠の若手ヴィジュアルロック界の中でもひと際強い個性を放つCHAQLA./孔雀座/色々な十字架/nurié/MAMA.の5組が出演。
-who’s next?- シーンの次代を担うのは誰なのか…お見逃しなく。
<公演名>
■VISUNAVI presents Visual Rock is not “DEAD”003
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<日時>
■11月23日(木・祝) OPEN 16:00 / START 16:30
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<会場>
■池袋EDGE
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<出演>
■CHAQLA. / 孔雀座 / 色々な十字架 / nurié / MAMA.
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<チケット料金>
前売り¥ 4,800(税込)
オールスタンディング
※入場時ドリンク代別途必要
※チケットはスマチケのみ、公式リセールは不実施
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【イープラスHP先行】
受付期間:8月12日(土)21:00~8月22日(火)23:59
URL:https://eplus.jp/sf/detail/3926030001-P0030001
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【一般発売日】:9月2日(土)10:00~
URL:https://eplus.jp/sf/detail/3926030001-P0030001
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<CHAQLA. HP>
https://www.chaqla-web.com/
<孔雀座 HP>
https://qjack-the.com/
<色々な十字架 Twitter>
https://twitter.com/kanari_tanbi
<nurié HP>
https://nurie-web.jp/
<MAMA. HP>
http://mama-visual.com/